四 死にぞこないの臆病風






買い物がてらかぶき町に足を伸ばしたら、偶然にも万事屋の3人が並んで歩いてくるところに出くわした。

銀さんの両隣を歩いていた神楽ちゃんと新八くんは、私の顔を見るなり顔色を変えて、あたふたと銀さんの後ろに隠れてしまい、ばたばたと何やら騒がしくやっている。銀さんはそんな2人を横目で見やって、面倒くさそうに後ろ頭をかいた。

「どうも、銀さん」

「おぉ、。買い物中か?」

「買い物はもう終わって、ちょうど銀さんに会い行こうと思ってたところよ」

「何? 飯でもおごってくれる気になったか?」

「生憎だけど、今日はこれから用事があるから。ご期待に添えなくてごめんね」

「じゃぁ何だよ? ヤクルトレディ?」

「土方さんを見かけなかった?」

銀さんはまばたきひとつの間をおいて、首を横に振った。

「いや? 知らねぇけど。どうかしたのか?」

「ちょっと、連絡が取れなくなっちゃっててね。もし見かけたら連絡くれない?」

「別にいいけど……」

銀さんは後ろを振り返ると、神楽ちゃんと新八くんが大声を上げながら両手をばたばたさせた。何をしているのかは分からなかったけれど、忙しそうだったので声はかけないことにした。

「あいつ、どうかしたのか?」

「いろいろあったらしくて、休職中なの。私も詳しくは知らないんだけど」

「ふぅん、休職中ね」

「何?」

「いや、何でも。これから用事って、仕事か?」

「ううん。近藤さん達と一緒に武州に行くことになったの。今日の夜の電車で発つのよ」

「へぇ。なんでまたそんな田舎に?」

「いろいろあってね」

銀さんはもう一度後ろを振り返って、まだ忙しそうな神楽ちゃんと新八くんを見やった。2人が何をしているのか分からなかったけれど、いつもどおり馬鹿騒ぎをしている彼らを見てどこか安心している自分もいて、は穏やかな気分で3人と別れた。





「で? 何やってんのお前ら?」

の姿が完全に見えなくなるまで待ってから、神楽と新八はようやく土方もといトッシーを開放した。トッシーは2人にもみくちゃにされて目を回していて、どうやら正気に戻るまでしばらくかかりそうだった。

新八は眼鏡のふちをつまみながら至極真面目な顔をした。

「だって、こんな状態の土方さんをさんに会わせてどうするんですか? 鬼の副長と恐れられていたあの土方さんが、こんなヘタレたオタクになっちゃったなんて、もしさんが知ったら……」

「100年の恋も覚めてしまうヨ。幻滅されること受け合いネ」

神楽が番傘を肩に担ぎながら投げやりに言うと、新八はまるで自分がに振られたかのように胸を押さえて傷ついたため息を漏らした。お前は一体何様だっつーんだ。銀時は鼻をほじりながら投げやりに言った。

「お前らがちょっかい出すほどのことかよ」

「銀さんはなんとも思わないんですか? さんが今の土方さんを見たら、どうなると思うんですか?」

「別に、こいつが振られるんならそれはそれでいいんじゃね?」

「ちょっと!? 何言い出すんですか!? いくら土方さんのこと嫌ってるからって、言っていいことと悪いことがあるでしょう!?」

「こんなヘタレオタクに付き合って、が幸せになれると思うのか? さっさとこんな奴に見切りつけて、他にいい男探したほうがいいに決まってんだろ。現実を知るということは辛いことかもしれないけどな、次に進むためには時に苦しみを味わうことも人生には必要なんだよ」

「なんかいいこと言ってまとめようとしてるみたいですけど、それもう完全に土方さん見捨ててますよね? それで良心が痛まないんですか? あんたって人は……」

新八にじっとりとした目で睨まれたけれど、銀時は素知らぬ顔で鼻くそを弾き飛ばした。土方がこれからどうなろうが知ったこっちゃないし、心配してやる義理もないので、そもそも痛む良心なぞどこにもなかった。

「銀ちゃん。これからこいつのことどうするアルか?」

「どうするって?」

「真選組を守ってくれって言われたじゃないですか」

「だから言ってんだろ。こいつにそこまでしてやる義理ねぇって」

「けど、真選組にはさんもいるんですよ?」

、ちょっと様子がおかしかったアル。きっと何か悪いことが起きてるネ。銀ちゃんはに何かあったら、それで平気アルか?」

新八と神楽に食ってかかられて、銀時は閉口した。2人がそこまでのことを心配しているとは思ってもみなかったし、ここまで自分が責め立てられるとは、一体どういうことだろう。俺が何をしたって言うんだ。

銀時だって、を心配していないわけじゃない。けれど、幼馴染だとは言え、どこまでしゃしゃり出ていいものか分からないのだ。例えば、大問題を起こして崩壊する真選組からひとりを助け出したとして、それでが喜ぶだろうか。銀時には、とてもそうは思えなかった。銀時との関係は一度終わっているのだから、を助け出す役目は、真選組の人間が担うべきだろう。それこそ、真選組を守ってくれと頼む暇があるのなら、自分で真選組ごとも守って見せやがれっていうんだ。

銀時はようやく正気を取り戻して立ち上がった土方に向き合った。土方はきょろきょろと視線を泳がせては、銀時の顔色を伺うような顔つきをする。銀時は、その仕草が腹立たしくてたまらなかった。

「おい。お前はそのへんのことどう思ってんだよ?」

「……拙者には、関係ないことでござる……」

「関係ないって、もともとを雇ったのはてめぇだろうが」

「最終的に採用を決めたのは近藤局長であって、拙者は初めから反対していたでござる!」

「責任逃れしてんじゃねぇよ」

「そもそも、殿は真選組の実際的な任務には一切関わっていないはずでござる! 真選組が危ないとはいえ、殿にまで危険が及ぶはずは……」

はこれから武州に行くっつってたぞ。任務に関係ねぇんなら、なんで急にお前らの里帰りになんか付き合わされてんだよ?」

「……それは……」

「それは?」

「……」

土方は顔色を悪くして黙り込んだ。

銀時の背中で、新八と神楽が顔を見合わせる。が危険に巻き込まれることは、もはや明白だった。助けに行かなければならない。けれど2人は、銀時が行くと言わなければ動くことはできなかった。

「お前、に惚れてるんじゃなかったのか?」

銀時の言葉に、土方は打ちのめされたように肩を落とした。人の顔色をちらちらと伺っていた視線は地面に落ち、口元には自嘲的な笑みさえ登った。

「……どうせ、とっくに嫌われたでござるよ……」

銀時はその言葉に腹が立って、土方の胸ぐらを掴んだ。

「そうじゃなくて、お前がどう考えてんのか言えっつってんだよ」

「……殿が、こんなへたれたオタク相手にするわけないでござる……」

「だから! お前が! あいつを! どうしたいのかって聞いてんだよ!!」

「……で、でも、拙者はもう……!」

「あいつがそんな理由でお前を嫌うような奴だって本気で思ってんのか!?」

銀時の勢いに押されて、土方は目を見開いた。銀時の瞳は怒りに燃えていて、今にも土方の喉笛を食いちぎろうとする獣のようだった。

「あいつは、そんな薄っぺらい女じゃねぇ。俺はあいつをよく知ってる。あいつは、どんだけ頭のネジが外れた馬鹿野郎だろうが、中2くさいこと言って世界ぶっ壊そうとしてる根暗だろうが、手のつけられねぇ極度のドSだろうがストーカーだろうが、ニコチンとマヨネーズまみれの小汚ぇ男だろうが、そんなことで人を差別するような女じゃねぇんだよ! なんでお前がそれを分かってやらねぇんだ!?」

「ついでに、万年金欠のどうしようもないニート侍もね」

「糖尿寸前も付け加えるアル」

「お前らは黙ってろ」

銀時に突き飛ばされた土方は尻餅をつき、情けない顔で銀時を見上げた。銀時は木刀に手をかけ、仁王立ちして言い放った。

「もう一度聞くぞ。お前は、あいつをどうしたいんだ? 答えに寄っちゃぁ、さっきの依頼聞いてやらんでもないぜ?」

銀時の木刀が土方の額に据えられる。土方はそれを、力ない瞳で睨み返した。





20150817