33 少女が、吉田にすがりついて泣いている。胸が呼吸に合わせて上下しているから、まだ息はあるのだろう。けれど沖田は、止めを刺そうとはせずに刀を下ろした。少女のすすり泣く声だけが響く中、はぼんやりとする頭でなんとか問い掛けた。 「……どうして、知ってるの?」 沖田は血に濡れた顔でを見ると、いつもと変わらない子どものような顔で笑った。 「万事屋の旦那が大怪我したとかで、さんが看病しに行ったことがあったでしょ。あの時、山崎が土方さんの命令で旦那の周辺を洗ってましてね」 は、途端に絶望的な顔になった。 「土方さんも知ってるの……?」 「安心してくださいよ。この事知ってるのは山崎と俺だけでさぁ」 は見る目にも明らかに、ほっと肩を撫で下ろした。 「……どうして、土方さんに報告しなかったの?」 沖田は部屋の隅に座り込んでいるの元に歩み寄って、その目の前に屈んだ。敵の返り血を浴びて、黒い隊服は赤黒く染まっていたが、はそんなこと気にならないようで、沖田の顔をじっと見つめていた。 豪華な着物と化粧のせいでよく分からないが、はやつれて、首が細くなってしまっている。沖田に秘密を握られていると知って怖じ気づき、不安でいっぱいの目をしていた。 「さんが、黙ってたからですよ」 沖田はできるだけ優しい声音で言った。 「俺は、さんの作る飯が好きなんでね。土方さんにさんを追い出されちゃ困ると思ったんです」 「……沖田くん」 「けど、今はもうそんな心配いらないでしょ? 土方さんがさんを真選組から追い出そうとなんてしたら、隊士達みんな黙っちゃいないですよ。そもそも、土方さんがさんにそんな酷なことできるわけないじゃないですか。さんがいなくなってたこの1週間、あの人本当どうしようもなかったんですから。早くさんに帰ってきてもらわなけりゃ困ります。でないと、真選組がぶっ壊れっちまいますよ」 沖田は呆然とするの腕を無理やり引っ張って立ち上がらせ、そのままそこから連れ出そうとした。 「……待てよ」 ふと、吉田が虫の息で喘ぐように言った。ひゅうひゅうと、息が漏れるような音がした。 「……さん。あんた、本当とんでもない女だな」 は沖田に体を支えられながら、吉田を見下ろした。血の海に沈みながら、吉田はそれでも笑っていた。 「……高杉っていう、爆弾抱えたまんま、あんたは幕府の犬の元に帰るって言うのかい?」 はどう答えようか迷ったけれど、死にゆく吉田に嘘をつく気にはなれなかった。 「……そうよ。けど、高杉くんは爆弾なんかじゃないわ。私の大切な友達で、家族よ。もう一緒にはいられないけど、高杉くんとも桂くんとも、切っても切れない糸で繋がってるの。昔も今も、これからもずっとよ」 吉田はゆるく瞬きをした。 「……糸、ね。それは真選組とも繋がってるのかい?」 は沖田の手をぎゅっと握り返して、決然と言った。 「そうよ。私の、大切な友達で、家族よ」 「……さん、あんたやっぱりとんでもない女だな」 吉田は眠るように目を閉じる。吉田の手が、そばに寄り添っていた少女の頭を撫でた。 「……こいつのこと、よろしく頼むよ。俺の大切な家族だ」 吉田の手が、力を失って倒れた。少女は吉田の手を握って力の限り名前を呼んだけれど、吉田は二度と目を覚まさなかった。 20141124 |