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「で、総悟はどこへ行ったんだ?」

と、土方は不機嫌に言った。

沖田が勝手に単独行動を取ってしまったためにあおりを食った山崎は、額にじっとりと冷や汗をかいている。沖田が何のためにこんな勝手をしているか分かっているけれど、土方相手に嘘をつきとおせる自信がなかった。

「さ、さぁ。俺は何も知りませんよ」

「何目泳がせてんだよ? 何か知ってんのか、お前」

「まぁまぁ、トシ。総悟のことだ。考えなしに動いてるわけじゃねぇだろうよ。信じてやろうぜ」

「そうだよ? 沖田くんだって子どもじゃねぇんだから。ひとりで迷子になったりはしねぇだろうよ」

「私に恐れをなして逃げたのかもしれないネ!」

「いや、それは戦う相手を間違ってるでしょ」

「……お前らはどっから湧いて出たんだ?」

土方は、真選組の隊列の中に平然と居並んでいる万事屋の3人を睨みつけた。

「だってほら、お前らがを助けに行くって言うから」

「極秘情報なんだよ! どこで嗅ぎつけてきやがったんだお前ぇは!?」

「あぁ!? どっかの無能が口滑らしたんじゃねぇの!?」

「おい山崎ぃ。ちょっとツラ貸せ」

「えぇ!? 俺ぇ!?」

山崎を挟んで小競り合いをする土方と銀時を尻目に、近藤は腕組みをしてやれやれと首を振る。新八はそんな近藤に耳打ちした。

「沖田さんは、本当のところどうしたんですか?」

「俺も詳しくは知らんが、何か考えがあるんだろうさ。ちゃんの命が掛かっているんだから、そう無茶なこともするまいよ。トシは、ちゃんのことを思うあまり、我を失い、周りが見えなくなってしまうかもしれない。真選組全体を率いなければいけないトシがそうなってはいかんのだ。それに、ちゃんには、敵の血で汚れたトシを見て欲しくないのかもしれない。あいつなりに、ちゃんとトシのことを考えてる。俺はそう信じているよ」

近藤はそう言って、自信ありげに笑った。


***



たったひとりで料亭に乗り込んできた沖田は、何が起きているのかが把握する前にほとんどの男を斬り倒し、部屋を血の海にした。は部屋の隅に逃れて、怯えて声も出ない少女をかばうように抱きしめている。沖田は攘夷志士だけを手に掛け、転げるように部屋から逃げ出した給仕の女を視線だけで見送った。血に濡れた刀を一振りして血糊を払った沖田は、血の海にひとり立ち尽くしている男にその切っ先を向けた。

「吉田利麿だな」

吉田は仲間の血に汚れた顔でにやりと笑った。

「そういうそちらは?」

「真選組一番隊隊長、沖田総悟だ」

「あれ。土方さんじゃないんだ?」

吉田が零した言葉に、は息を飲んだ。どうして吉田は、土方がここへ来ると予測していたのだろう。

「俺が相手じゃ不満か?」

さんを助けに来るなら、土方さんなのかと思ってたからさ」

「……どうして……?」

は無意識に呟いてしまう。沖田と吉田が同時にを見たけれど、ふたりとも全く表情を変えなかった。

さん、そいつの名前を呼んでたよ。水臭いよね、真選組の鬼副長とお知り合いだなんて、教えてくれれば良かったのに」

さん。土方さんならもうすぐここに来ますよ。けどその前に……!」

沖田は刀を振り上げて吉田の首を狙う。吉田はすんでのところでそれを刀で受け止め、いなした。刀と刀がぶつかる甲高い音が響いて、は肩をすくめた。

「こいつの息の根を止めてやらねぇとな」

「なんだい? 土方さんと俺を会わせたくないみたいな言い草だね」

吉田は体制を立て直して、沖田と距離を取る。間合いを詰められたら、沖田の方に分があると分かっているようで、何とか時間を稼ごうとしているように見えた。

の腕の中で、少女が吉田の名前を呼んで震えた。

「都合の悪いことでもあるの?」

「お前が痛い思いしねぇように優しく冥土に送ってやろうとしてんだよ」

「敵に情けをかけるとは随分余裕があるんだねぇ」

「無駄口叩く余裕があんのはそっちだろ」

「無駄口ついでに言うけど、さんは渡さないよ。これから高杉に会うんだから。幼馴染同士の感動の再会を邪魔しないでよね」

「ちょっ、吉田さん……!?」

沖田の前で高杉の名を出され、は焦った。真選組の誰にも秘密にしていることを吉田の口から漏らされたのではたまらない。けれど吉田はの焦りを感じては、心底面白そうに続けた。

「あの高杉や、狂乱の貴公子・桂小太郎と幼馴染でありながら、真選組の家政婦してるなんて、随分肝が座ってるよねぇ。 攘夷志士と真選組の二重スパイでもしてるの?」

「……吉田さん、お願い、やめて……」

「しかも、さんは高杉ならきっと、この窮地から助けてくれるって信じてるんだってさ。それって、真選組が助けに来てくれるとは思ってないってことでしょう?」

「違うわ! でたらめなこと言わないで!」

「子どもの頃生き別れた友人との再会! 美しい話じゃないか!  それを邪魔してるのは他でもない真選組だろう!?」

「やめてー……!!」

が大声を上げたその瞬間だった。吉田の首筋から血しぶきが上がった。沖田が目にも止まらぬ速さで吉田を切ったのだ。

少女がの手を振り払って、倒れこんだ吉田に駆け寄った。はその場から一歩も動けず、唖然とする。

吉田の返り血を浴びて体中を真っ赤に染めた沖田は、吉田を冷たい眼差しで見下ろし、言った。

「そんなこと、とっくに全部知ってんだよ」




20141124