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沖田と山崎が持ち帰った情報を元に、真選組は今夜、料亭「かえで」に踏み込むことになった。

「かえで」は幕府要人も使用するセレブ御用達の高級料亭で、密談や会合にも使われるのだという。プライバシー厳守の姿勢に定評があって、幕府の人間だろうが攘夷志士だろうが、金さえあれば、完璧に守られた場所で会合を開けるというわけだ。

土方の立てた計画は、監察方が料亭を見張り、攘夷志士が集まったところを狙って、一網打尽にするというもので、土方を先鋒に、一番隊、三番隊、十番隊が実働部隊として動くことになった。

「自分から先鋒を名乗り出るたぁ、土方さんも随分焼きが回りましたね」

テレビを見ながら煎餅をばりばり齧って、沖田が言う。テレビの中では、ここ最近の爆破テロの続報が延々と報道されていた。

「まぁ、そう言ってやるな。それだけちゃんのことが心配なんだろう」

刀の手入れをしながら、近藤が答えた。その表情は、いつもと違って真剣そのものだ。

「今のところ、今回の件では土方さん、全然活躍してませんからね」

「万事屋の野郎にも殴られたらしいな」

「殴られたんじゃなくて、殴り飛ばされたんでさぁ」

「いつもけんけんけんけんやり合っているが、トシがそんな一方的にやられるとはなぁ」

「万事屋の旦那に喧嘩で負けるのは2回目ですねぇ」

「よほどちゃんのことでダメージを受けてるんだろう」

「けど、真選組の鬼の副長がそんな調子じゃ、隊に示しがつきやせんよ」

「……おい、そこの2人。好き勝手言ってんじゃねぇぞ……」

低く唸るような声で、土方が言った。

「おぉ、トシ」

「おぉ、トシ。じゃねぇよ。これから出撃だってのに、気ィ抜いてんじゃねぇよ」

「土方さんは肩肘張りすぎなんじゃないですかぃ? そんなんじゃ、見えるもんも見逃しますよ?」

沖田の言い分に、土方は沖田をぎっとぎっと睨みつけた。

近藤と沖田を尻目に、土方は踵を返した。

その土方の背中から鬼気迫るものを感じて、近藤と沖田は身構えた。土方はこの1週間すこぶる機嫌が悪かったが、が行方不明になっていることへの不安より、自分への苛立ちが土方をそうさせていることを、ふたりともよく知っている。が行方不明になってからの土方は、思えば散々だった。犯人かと思われた岩城屋はその一端を担っていはいたが空振りで、のことを知った銀時に殴られ、厳戒態勢を敷いていながら、吉田の居場所を突き止めるまでに3日もかかって、松平から小言を言われ、あのプライドの高い土方のこと、憤懣やるかたない思いだろう。

ふと、沖田が言った。

「近藤さん。俺、ちょっと別行動とらしてもらうんで、土方さんにフォローしておいてもらっていいですか?」

「別行動? 一番隊は実働部隊だろう?」

「神山あたりに任せまさぁ。土方さんが先鋒なんだから、大丈夫でしょ」

「総悟、一体何をする気だ?」

「そんなの、決まってるじゃないですか」

山崎が銀時から聞き出した話によれば、は数日前から料亭「かえで」の離れに囚われている。主犯は、徒勇隊を率いる吉田利麿だ。桂や高杉ら攘夷志士との取引に利用されようとしているらしい。どうしてが取引のネタにされているかは、今のところ、沖田と山崎だけの秘密だ。近藤も土方もそのことだけは不審がってあれこれ推測しているようだけれど、が隠し通してきたことを、沖田や山崎が勝手に漏らすことはできない。

けれどそんなことは今はどうでもいい。やらなければならないことは単純だ。

沖田は不敵に笑った。

さんを、助けに行くんですよ」




20141124