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こんな真夜中ではあったが、は湯を使っていた。この離れに閉じ込められて以来風呂に入っていなかったのと、吉田曰く「明日の前夜祭」に向けて身支度を整えなければならない気がしたから、世話をしてくれている少女に頼んだのだ。神経が高ぶって眠れる気がしなかったし、この時間になれば吉田はここには来ない。

たらいに熱い湯を張って、髪を結い上げ、手ぬぐいで体の垢を拭う。湯船に浸かった時ほどではないけれど、温かなそれに体のこりがほぐれるような気がして気持ちが良かった。

「背中、やりますね」

少女が腕まくりをしての背後に回る。

さん、細いんですね。背骨が浮いてますよ? 触ったら折れちゃいそう」

はくすくすと笑いながら答えた。

「そこまでやわじゃないわよ」

「でも、そんな貧相な体じゃ銀さんは振り向いてくれないわよ。もっとMっ気のある体にならなきゃね、この私みたいに」

「え?」

瞬きをするほんの一瞬の間のことだった。たった今まで少女がいたところに、猿飛あやめが手ぬぐいを持って膝まづいていた。少女はその真後ろに倒れている。

「始末屋さっちゃん、参上」

「えぇ!?」

は胸元を押さえて、大きな声が出そうになるのをなんとか堪えた。

「さっちゃんさん……!? え!? なんで……!?」

「久しぶりに出てきたと思ったら、セクシーショットで悩殺作戦? 助けに来たのが私で残念だったわね。定番のお風呂でばったりパターンじゃなくて悪かったわね」

「助けに来たって、どうして……?」

さっちゃんは乾いた手ぬぐいと浴衣をに投げつけて言った。

「銀さんに頼まれたのよ」

「銀さんが?」

さっちゃんは雨戸を細く開いて、外の様子を伺う。

「銀さんもそこまで来てるわ。早く服を着て。素っ裸で逃げるつもり?」

「でも、この離れは見張られてるって……」

「私を誰だと思ってるのよ? そんなのとっくに片付けてるわ。けど、気づかれるのも時間の問題よ。いいから急いで」

はあまりに突然のことに身動きがとれない。床に倒れた少女を見る。どうやら気絶しているだけのようだ。

ふと、雨戸をとんとんと叩く音がした。

? 大丈夫か?」

そこから顔を覗かせたのは、銀時だった。随分久しぶりにその顔を見た気がして、は涙が出そうだった。

「なんちゅーかっこしてんだ? お前」

銀時は眉根を寄せて言った。さっちゃんが、離れの入口に背を預けて、外の様子を見ていた。

「……銀さん。どうしてここに……?」

「ヅラに聞いた」

「桂くん? どうして?」

「どうしてもクソも後で説明するから、さっさと逃げるぞ」

窓を乗り越えて、銀時が部屋に入ってくる。の膝の上の浴衣を引っ掴んで体を包み込むようにすると、体ごと抱えて窓から出ようとした。

「ちょっと、待って! 銀さん!」

は銀時の胸に手をついてその体を押し返した。銀時は目を見張る。

「なんだよ? 時間ねぇんだぞ?」

「……だめ。私逃げられない……」

「何言ってんだよ? お前、今どういう状況か分かってるか?」

「だって、明日なのよ! 銀さん」

はなりふり構わず、銀時の胸ぐらを掴んで訴えた。胸元を覆っていた手ぬぐいが落ちてあられもない格好になったが、そんなこと気にも止めていなかった。

「吉田さんが言ってたの。明日は本番のための前夜祭だって。何をする気か分からないけど、きっと、高杉くんが来る……!」

は上ずった声で、泣きながら訴えた。はずっと同じ場所に閉じ込められていたせいで、情緒不安定になっていた。こんなに取り乱して、感情に任せて泣きじゃくるを見るのは初めてで、銀時はとっさに何も言えなくなってしまう。素っ裸で銀時にしがみつくは、まるで生まれたての赤ん坊のようだった。

「どうしよう、高杉くんが、くるかもしれないの、どうしよう銀さん、土方さんが、高杉くんに会ったら、どんな顔したらいいか分からない、私はなんて言ったらいいの? 高杉くんのことずっと秘密にしてたの、謝るの? でも、何が悪かったの? 私は何を間違えたの? 私はただ、高杉くんや桂くんと友達だっただけで、どうしてこんな罪悪感感じてるの? どうして? これはなに? こんなので、土方さんに嫌われたら、わたし、どうしよう、もう、分かんないの……!」

しまいには大声を上げて泣き出したを、銀時は力いっぱい抱きしめた。




20141124