26 「まったく、どうして私がこんなコソドロみたいなマネしなきゃならないの? いくら銀さんの頼みとはいえ、仕事でもないのにやってらんないわよ。さんを救い出すなんて言ってもね、私と銀さんの将来のためにはあんな女いない方がいいに決まってるのよ、小姑になるの目に見えてるんだから! けど銀さんが手を貸して欲しいって言うから、銀さんのためなら火の中水の中どこへだって行くって決めたのは私だから! 誓いを破るわけにいかないんだもの! そうやってジレンマに苦しむ私を見て楽しんでるのなんか、私全部分かってるんだからね! さんを助けたら、ハワイで身内だけの小さな結婚式上げようって約束のために、私頑張るから!」 「誰もそんな約束してねぇよ!」 薄暗い木陰の中で、銀時はさっちゃんの後頭部を思い切り殴った。ものすごくいい音がしたけれど、さっちゃんは平気そうだった。 さっちゃんこと、猿飛あやめは、日課で万事屋のテーブルの下に潜んでいた時に桂と銀時の話を聞いた。これは大変なことになった、とは思ったのだが、自分から何を申し出たわけではない。そもそもはさっちゃんにとって目の敵だった。幼馴染だかなんだか知らないが、銀時の隣にいるというだけでむかっ腹が立つ存在だった。 だのになぜこんなことをしているのかというと、銀時が頭を下げて頼んできたからだ。銀時がさっちゃんに頼みごとをすることなど滅多にない。さっちゃんはふたつ返事で頷いた。 銀時が提案したのは、が閉じ込められているという料亭に忍び込んで、を救出すという作戦だった。元御庭番、現始末屋のさっちゃんにかかれば単純な仕事のはずだ。さっちゃんは以前にもこの料亭で仕事をしたことがあって、その時は幕府の要人のひとりを暗殺した。地の利はこちらにもあるというわけだ。 「やっぱ、お前に頼んだの間違いだったな。ったく、なんでこういう時に全蔵が捕まんねぇんだよ」 「全蔵は痔が悪化して身動きが取れないのよ」 「いや、そんな瀕死の重症みたいに言われても……」 ちなみに、桂はここにはいない。江戸中の警備が強化されている今、下手に動けないので身を隠すのだそうだ。 「それにしても、本当にこの道で合ってんのか? どう見てもただの森じゃねぇか」 銀時は道を塞ぐ木の枝を押し避けながら言った。 「この料亭は幕府の要人や財界のトップが会談するのによく使われていてね。こういう隠れ家的な作りになっているから、使いやすいのよ。経営者もそれを狙ってるんじゃないかしら。中でも、さんが捕らわれているっていう離れはここの主人の旧知しか使わせないようなプライベート空間だから、その吉田って人には随分な人脈があるんでしょうね」 「バカ高そうな店だよな。下々のもんはこんな事件でも起きない限り世話になることもなさそうだ」 銀時は木陰の隙間から漏れてくる灯りと、酒の匂いに神経を尖らせた。 桂からの居場所を聞き出したものの、ことがことだけに新八や神楽を連れてくる気にはなれず、神楽が眠ったのを確認してから真夜中に万事屋を出てきたのだ。いくら始末屋さっちゃんが付いているとは言え、何か起きたらひとりで対処しなければならない。緊張が走る。 ひとりで先走らずに、真選組に情報提供をした方がいいのかもしれない。けれど情報源を説明できないし(忘れられがちだが、桂は指名手配犯なのだ)、攘夷志士である桂や高杉、そして銀時と関係があったために、はこんなことに巻き込まれたのだ。だからこそ、銀時は自分の手でを助け出してやりたかった。 「見えたわ。銀さん、あそこよ」 木陰に身を潜めながら、さっちゃんが指差した。よくよく目を凝らすと、木立の間に隠れるように小さな小屋が立っているのが分かった。雨戸がしまっていて中の様子は分からず、人の気配はないように思える。けれど、桂の話ではここにが閉じ込められているはずだ。 「間違いないのか?」 「えぇ。昔あの離れでとある財閥の会長を暗殺したことがあるの」 「……随分縁起の悪ぃ場所だな」 「私が先に様子を見てくるわ。合図をしたら、あの雨戸の下まで来てちょうだい」 「本当に大丈夫なんだろうな? 吉田とかが部屋にいたらどうすんだよ?」 心配そうに言う銀時に向かって、さっちゃんはこれみよがしに美しく微笑んだ。 「私を誰だと思ってるの? 最強の始末屋、さっちゃんよ。銀さんのためならたとえ火の中水の中って誓ったの。任せていて」 そう言って、さっちゃんは音もなく姿を消した。 20141124 |