23 夜通し江戸中をスクーターで走り回ってガソリンが切れたので、朝方やっと万事屋に戻ってきた銀時は、居間で茶をすすりながらくつろいでいる桂とエリザベスを見て額に青筋を浮かべた。 「……人ん家で何やってんだ? ヅラ」 「ヅラじゃない、桂だ。人がせっかく訪ねてきてやったというのに、お前はこんな時間までどこに行っていたんだ?」 「てめぇと違って俺は忙しいんだよ」 「銀さん。桂さんはさんのことで来てくれたんですよ」 一足先に万事屋へ戻っていた新八が言った。 「ようやく吐く気になったアル。遅すぎるくらいネ」 神楽が酢昆布を齧りながら言った。銀時は3人の顔を見比べて驚いたように瞬きをした。 「何でヅラがのこと知ってんだよ?」 「私が話したアル」 「銀さん、ひとまず座ってください。僕たちもこれから話を聞くところなんです」 促されるままソファに腰を下ろす。銀時の両隣に神楽と新八が座ると、桂は湯呑をテーブルに置いて腕を組んだ。 「実は、の居場所を知っている」 銀時は勢いよく立ち上がった。隣で新八と神楽が服の裾を引っ張るけれど、銀時は両手を固く結んで微動だにしなかった。 「おい、そこ教えろ。連れていけ」 「悪いが、それはできん」 「何でだよ!?」 「ちょ、銀さん! 落ち着いて!」 新八が銀時の腰をぐいと引っ張って、無理やりソファに座らせた。桂はじっと銀時を睨みつけて答えた。 「先日の爆弾事件のせいで、江戸中が厳戒態勢にある。俺も今は自由に動けんのだ」 「そんなの知ったこっちゃねぇんだよ。に何かあったらてめぇどう責任取るつもりだ!?」 「落ち着つけ。今のところ、は無事だ。命を狙われることもない」 「どういう意味だよ?」 「爆弾テロとの誘拐事件、このふたつの事件の主犯は吉田利麿という男だ。徒勇隊という攘夷組織を率いている。元は鬼兵隊から離反した組織でな、高杉とも共に活動していた経験があったはずだ」 「高杉と?」 「俺は吉田から取引を申し込まれた。とある計画に協力すれば、を開放すると言われた」 「どんな計画だよ?」 「風の強い日を選び、江戸中に火を放ち、その混乱に乗じて将軍を暗殺するというのだ」 「将軍暗殺?」 「もしかして、岩城屋が真選組に調べられていたのも……?」 「あぁ。岩城屋は徒勇隊のパトロンだったんだ。しかし、徒勇隊と手を切ろうとしていたようでな。犬の首輪についていた爆弾は岩城屋が仕掛けたものだったのだ。徒勇隊に罪をなすりつけようとしたのだろうが、爪が甘かったようだな。真選組が家宅捜査に入っている」 「ちょっと待てよ。なんでが攘夷志士同士の取引のネタにされてんだよ? 今の話だと、真選組の家政婦だからってことじゃねぇんだろ?」 桂は銀時を睨みつけ、苦々しく言った。 「分からんのか? 銀時。吉田は俺たちの関係を知っているということだ。松陽先生の元で共に過ごした、昔馴染みだということを」 銀時は膝の上で拳を握り締めた。 今まで、は真選組と攘夷志士とのいざこざに巻き込まれたのだと思っていた。だから土方に腹を立てて殴り飛ばした。けれどそうではなかったのだ。そもそもの原因は、銀時、桂、高杉にあったのだ。 「俺に協力を申し込んでくるくらいだ。徒勇隊は岩城屋という後ろ盾を失って窮地に立っている。それに、高杉に同じ取引を持ちかけている可能性もある」 「高杉がその取引に応じると思うか?」 「さぁな。勝機があれば可能性はあるが、そもそも高杉が誰かのいいなりに取引に応じるとは思えん。手を組むとしても、何か突拍子もないことをしでかす可能性があると思うな。今のところ、はっきりしたことは何も分からん」 じっと睨み合う銀時と桂を、神楽と新八はじっと見守った。攘夷戦争以前のふたりがどんな人生を送ってきたのか、少しだけ話には聞くけれど、何も知らないという方が正しい。銀時がこの情報をどう受けて、これからどう動くのか。ふたりにはそれが一番大切なことだった。 「真選組はじめ、江戸中の警察組織が総動員されている今、俺にできることは何もない」 桂は銀時をじっと見つめ、問うた。 「銀時。お前は、どうする?」 20141124 |