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が料亭の離れに閉じ込められてから、3日目の朝がやってきた。

窓辺に座って、だんだんと白んでくる障子の向こうの太陽の光を思い浮かべながら、はゆるい瞬きをした。その面立ちは、少しやつれている。いつもならこんな格好はしないのだけれど、壁に背中を預けて、足を投げ出すようにして座り込んでいた。

1日中部屋に閉じ込められて、することもなく、ただただ時が過ぎるのを待つのは、拷問のようにを苦しめた。何もしていないのに、疲れる。食欲もわかない。夜もほとんど眠れず、いつ頃からか常に頭痛がするようになった。毎日、あの宿屋の娘がやってきて温かなお茶を入れてくれ、他愛もないおしゃべりをしてくれるけれど、もうそんなことで気を紛らわすこともできなくなってきた。

「調子、悪そうだね」

吉田が苦笑いしながら言った。は力なく吉田を睨みつけて答えた。

「そう思うんなら家に帰してくれない?」

「それはできないよ」

吉田はいつもどおりの真正面にあぐらをかいて、下からを見上げ、にやりと笑った。

「もう少しの辛抱だから、我慢してよ」

「もう少しっていうのは、具体的にいつまで?」

「明日まで」

意外にもあっさりと、吉田は答えた。は不審げに眉をひそめる。

「それは、どういう意味?」

「明日が本番なんだ。もっと詳しく言うと、本番のための前夜祭が明日。でも、さんにとっては明日が本番だよ」

「言ってることが全然分からないわ」

「明日になれば分かるよ」

吉田はふと、部屋の片隅にある文机を見やる。そこには、4日前に吉田がお土産に持ってきた金平糖の包みが手をつけられずに置いてあった。隣には宿屋の娘が持ってきた小花柄の美しい茶器と干菓子があって、こちらにも手をつけた様子はない。

「毒なんか入ってないからさ。甘いものでも食べて元気を出しなよ」

吉田はそう言って、自分で金平糖の包を開き、色とりどりのそれを手のひらにこぼして、自分の口に放り込んでばりばりと噛んだ。

「ほら、入ってない」

「そうみたいね」

吉田はもう一度金平糖を手に取ると、それをの手のひらにこぼした。

はそれをしばらく見下ろしてから、桃色のそれをひとつつまんで口に入れる。かすかな甘味が舌の上に広がって、それはあっという間に溶けてなくなった。

「いい子だ」

吉田は満足げににこりと笑った。の辛さなど、目に見えていても完璧に無視するつもりらしく、そのあくのない微笑みはの神経を逆撫でた。けれど、にはもう怒る気力も残っていなかった。

「夜にまた来るからね」

そう言って、吉田は部屋を出て行った。

それを見送ってから、はもう一度金平糖を口にする。食欲はなかったけれど、程よい甘みで気が紛れるような気がしたのだ。

デパートの爆破テロの現場から連れ去られて、もう6日だ。世間は一体どう動いていることだろう。この離れにテレビはないし、公道と離れた場所にあるのだろうか、外の世界の音が全くと言っていいほど聞こえないから、情報が何も入ってこなかった。犬の首輪につけたメッセージも、きっと誰にも届かなかったのだろう。

真選組は、きっとてんてこ舞いになっていることだろう。管轄内で爆破テロが起きた上、が行方不明になっているのだから、猫の手も借りたいような状況かもしれない。

皆、ちゃんとご飯を食べているかしら。

そんなことを思って、は仰向いて、障子の向こうから差し込む柔らかな光に目を細めた。食事や掃除は家政婦斡旋所のパートさんが代行してくれているだろうけれど、細々した仕事をやり残してきたことが心残りだった。

繕わなければならない着物がたくさんあったし、客間の畳が傷んでいたからそろそろ取り替えたかった。皆に打粉を作ろうと思っていたのに、あの綿の布地はさらわれる前にどこかへ落としてきてしまった。

それから。

「……土方さん」

は無意識にそう呟いた。

今、どうしているだろう。煙草の吸殻は、部屋に溜まってしまっていないだろうか。きっと爆破テロのせいで忙しく働いていることだろうから、怪我をしないように、あまり無理をしないで体を大事にしていて欲しい。近藤や沖田や山崎や、隊士達みんなが、土方を支えてくれているといい。

会いたいと、思った。顔を見たいと思った。声が聞きたかった。あの差し貫くような目に見つめられたくて、硬く骨ばったたくましい手に触れたかった。マヨボロの煙草の匂い、キスをした時の苦い味、抱きしめられた時に体が潰れそうになる腕の圧力。土方の全てを思い出したくて、けれど、思い出した分だけ胸が苦しくなる。

が目を閉じると、その目尻から涙が一筋頬を伝った。




20141124