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「古高が吐いた」

会議室に集まった真選組幹部の面々を前に、土方は言った。

「吉田利麿率いる徒勇隊が、風の強い日を狙って江戸各地に一斉に火を放ち、その混乱に乗じて将軍を暗殺する計画を立てている」

一同は驚きにざわめいた。土方は続ける。

「江戸城含め、見廻組、その他江戸の警察部隊全てに通達を出すよう、松平のとっつぁんに連絡した。今夜から、警戒レベルを引き上げる。が、そもそも真選組の管轄内で起きた事件だ。俺達でカタつけるつもりで、各隊、気を引き締めていけ」

「徒勇隊がどこに潜伏しているか、調べはついているのですか?」

原田が問う。

「監察方が調べを進めているが、まだはっきりした情報はあがって来てねぇ。古高と、岩城屋の方を引き続き取り調べてるから、各自情報回線は常に開けておくようにな」

「徒勇隊の編成規模や、吉田の人相書きもないのですか?」

「元々、鬼兵隊から派生した隊で、隊員数は30名程という話だ。ただ、この話は岩城屋から聞き出したことで、岩城屋も火薬の取引に関わっていた吉田とその他10名程の浪士の顔を見たことがあるだけだという話だ。人相書きは今、岩城屋の話をもとに作ってる。悪いが、それ以外の詳しい情報はない」

「そんな……」

「それで星を上げろってのは無茶が過ぎますよ、副長」

「それは俺だって分かってんだよ。だが、ことは一刻を争う。手当り次第やるしかねぇんだ。怪しい奴を見つけ次第しょっぴいていい。責任は、近藤さんが取ってくれる」

「俺か!? 俺なのか!? トシ!?」

「土方さん。ひとつ確認したいことがあるんですけど、いいですか?」

沖田はわざとらしく挙手をして言った。土方はそれを睨みつけるようにして答えた。

「なんだ?」

さんのことは、何か分かってないんですか?」

一瞬、場の空気がめらりと熱くなった。ある意味では、真選組にとって江戸の大火よりも重要な問題だ。

「岩城屋には囚われていなかった」

土方は無表情に言った。というより、努めて感情を表に出さないようにしているのだろう。

「他に手がかりはないんですか?」

「岩城屋からは何も出てこなかった。監察方に調べさせてるが、めぼしい情報はまだ上がってきていない」

「そもそも、さんはなんで徒勇隊に囚われていると考えるんです?」

「何が言いてぇんだ?」

沖田は土方をじっと見つめながら聞いた。

「デパートの爆破事件の日、さんが消えた。爆破事件の犯人の顔を見てしまったか何かして、拉致されたと考えるのが自然でしょうけれど、岩城屋は徒勇隊と取引をしていたにも関わらず、さんの存在を知らなかったんでしょう? 江戸に火を放つという計画にさんを利用するにしても、そんなことにさんをどう利用するって言うんで?」

「確かにな。今回の件、ちゃんが拉致されていることが、一体何に作用するのか、どうも分からん」

近藤があごひげを撫でながら唸った。

さんが一体何に利用される可能性があるのか、土方さんは何か心当たりないんですか?」

その質問に土方は答えることができず、会議はそのままなあなあの内に終わってしまった。不機嫌な顔で真っ先に会議室を出ていく土方の背中を見送ってから、沖田はその反対の襖を引いて外へ出る。そこには、会議には出席していなかった監察方の山崎がいて、ふたりは目配せをして人気のない場所まで移動した。

「……沖田隊長。やっぱりあの事、副長に報告すべきでしょうか?」

山崎は自信なさげにそう言った。

実はこのふたり、について重大な秘密を握っている。には、狂乱の貴公子・桂小太郎や鬼兵隊・高杉晋助と幼少期を過ごし、親密な仲だったという過去があるのだ。ふたりがこの事を知っていることは、近藤や土方はもちろん、も知らない。詳しくは秘事枕第二章第十話参照。

さんに断りもなくってのは、俺は賛成できねぇな」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう? 徒勇隊が鬼兵隊から離反したのは、高杉と吉田の確執が元だという噂もあるんです。さんが高杉と親密だったのなら、吉田にとって利用価値は充分。最悪、鬼兵隊との取引に利用されてしまうかも……」

「江戸を火の海にしようって計画に鬼兵隊が絡んでくると思うか?」

「可能性はあると思います。高杉は過激派攘夷志士の代表なんですから。例えば、この計画に鬼兵隊が力を貸すかわりに、さんを……」

言っていて恐ろしくなったのか、山崎は顔色を悪くして肩を震わせた。

「お前が勝手な想像すんのは勝手だけどな、土方さんにそれを進言するのはもう少し待てよ」

「……沖田隊長。でも、どうするつもりなんです?」

「万事屋の旦那も、さんを探して駆けずり回ってんだろ?」

山崎ははっとした。万事屋の坂田銀時は、攘夷戦争に参加した折、白夜叉と恐れられた伝説の攘夷志士だ。桂や高杉との関わりもあったという。銀時がうまく動いてくれれば、を救い出せるかもしれない。

「どうなるかなんてまだ分かんねぇけどな。あの人なら、何かしでかしてくれそうな気がするだろ?」

「……しでかされるのは困りますけどね」

山崎はため息をついた。




20141124