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を探して街を歩き回っていた神楽は、道端で桂と遭遇した。桂はむつかしい顔で腕を組んでいて、隣を歩くエリザベスは心なしかぷりぷり怒っているように見えた。

「おや、リーダー」

「おぉ、ヅラ」

「ヅラじゃない、桂だ。こんなところで何をしている?」

「仕事アル。を探してるんだけど、見なかったアルか?」

神楽は傘の下から桂の顔を覗き込んで聞いた。神楽が言わんとしていることを計りかねて、桂は平常心を装いながら答えた。

「悪いが、知らんな。何かあったのか?」

「3日前から行方不明なんだって。銀ちゃんたちが死に物狂いで探してるけど、まだ見つからなくて……」

神楽は落ち込んで肩を落とす。桂は内心複雑な思いで、神楽の頭を撫でてやった。

「3日程度飲み食いしなくても、人間は死んだりせん。銀時が探しているのだろう? 大丈夫、きっと見つかるさ」

神楽はその青い目を丸くして、桂を見上げた。桂はらしくもなくどこか沈んだ顔をしていて、神楽は胸の奥の方がちりと焦げ付いた。

「ヅラは協力してくれないアルか?」

桂はしまった、といいたげに瞬きをした。それを見逃さなかった神楽は、傘の下から手を伸ばして桂の胸ぐらを掴み、ぐっと引き寄せた。

「お前、何か知ってるアルか?」

桂は無理やりお辞儀をさせられているような格好になって、「あだだだだだっ」と呻いた。

「俺は、何も知らん……!」

「嘘つけ。いいから、全部吐けヨ。こちとら銀ちゃんの機嫌が最悪で夜も満足に眠れねぇんゾ。夜ふかしは美容の大敵なんだゾオラァ」

どすの利いた声で神楽が言う。桂はぐらぐらする頭をなんとか働かせて、どうすれば言い逃れできるか考えた。

桂のよく知る攘夷志士・吉田にを拉致された。そのことを知っていながら、を救い出すための手立てが全く思いつかなかった。を目の前にしていながら、何もできなかったのだ。

銀時に伝えるべきだろうか。けれど、自分ではできないことを銀時に押し付けてしまうようで情けない気持ちになる。の居場所を教えたら、銀時は何をも顧みず単身そこへ乗り込んでいくだろう。吉田相手ではきっと、銀時でも部が悪い。吉田が率いる徒勇隊は、鬼兵隊から分岐した経緯もあって腕の立つ者ばかりが集まっている。その上、例の計画のこともある。ことは、吉田ひとりを押さえれば肩がつくという単純なものではないのだ。

「おいぃ! 何とか言えよゴラァ!!」

「本当に何も知らんのだ! リーダー離してくれ!」

神楽の手からなんとか逃れ、長い髪を振り乱しながら桂は叫んだ。神楽は傘の柄をぎゅっと握り締め、どこか大人びた顔をして目尻を下げた。

「……銀ちゃん、のことすごく気に病んでるネ……」

銀時の家の押し入れを寝床にしている神楽には、きっとそれがよく分かるのだろう。神楽を労わるように、定春がその鼻先を神楽の体に押し付けた。

「銀ちゃんが、のことをすごく大切にしてるのは分かってたヨ? けど、銀ちゃんがあんな風に取り乱すなんて予想外で、どう励ましたらいいか分からないネ」

「銀時はそんなに落ち込んでいるのか?」

「落ち込んでるというより、怒り狂ってるアル。土方のこともグーパンチで殴り飛ばすほどネ」

「あの鬼の副長をふっとばすとは、さすが俺が見込んだだけのことはあるな。この機会に、再び俺と攘夷活動に……」

「今そんな話してねぇんだヨ」

神楽のストレートパンチが桂の鳩尾にクリーンヒットした。腹を抱えてうずくまる桂を睨み下ろして、神楽は仁王立ちする。

「今だけは見逃してやるヨ。話す気になったら、私はいつでも万事屋で待ってるネ」

捨て台詞を吐いて、地面にうずくまった桂を残し、神楽は歩き出す。定春の生暖かい吐息を感じながら、神楽は確信めいたものを感じていた。

はどこかの攘夷志士に連れ去られたと、沖田が言っていた。同じ攘夷志士の桂はそのことを知っていて、けれど知っていることを知られたくないらしい。攘夷志士絡みの事件があるたびに桂を頼っていたくせに、今回は怒りに我を忘れて桂を頼ることをすっかり失念している銀時は問題外として、真選組には攘夷志士がひとり捕らわれているらしいから、なんとしてもそいつに情報を吐かせるだろう。本気でを助け出すつもりなら、真選組の情報を頼りつつ、桂に探りを入れていくのが一番の近道のように思える。

神楽は、を助けたかった。死んで欲しくなかった。が行方不明と知ってからの銀時はもう見ていられないくらい取り乱していて、そんな銀時をなんとか安心させてやりたかった。銀時のあの様子には、覚えがある。実の兄が、父親の片腕を切り落として出奔したあの日。今の銀時を見ていると、あの頃の自分を思い出すのだ。

大切なものは失いたくない。それを守り抜くためにならなんだってする。狂気といってもいいその強い想いは、扱い方を間違えると暴走してしまう。一度そうなったことがあるからよく知っている。銀時には、あんな思いをして欲しくない。

神楽は自分が守りたいもののために、を救いたかった。銀時が大切だから、銀時が大切なのことを、なんとしても救いたかった。




20141124