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吉田の命令で、は宿屋からとある料亭の離れへ身を移した。車に乗せられた上目隠しをされたので、一体どこへ連れてこられたのか分からなかったけれど、建物の装飾や、美しく整えられた日本庭園があるところを見ると、上等な旅館か、料亭だろうということが分かる。そんな場所の離れを貸し切れるなんて、吉田という人物は思っていたよりも顔の広い実力者なのだろうか。

「急にお引越しだなんて、何かあったんですか?」

落ち着かずに部屋を見回しながら、は言った。

「内緒だよ。まだね」

吉田はいたずらっぽく笑って言った。

「この部屋は好きに使っていいからね」

「こんな人目につかない場所に私を放っておいたら、逃げ出してしまうかもとは思わないんですか?」

は窓を開けて、外を見やりながら言う。この離れは母屋からは少し離れていて、庭園を彩る木々がその周囲を覆うように茂っている。まるで人目を忍ぶために建てられた家のように見えた。

「この離れは母屋のある一角からは丸見えなんだよ。どこからとは言わないけどね」

吉田は飄々と笑いながら言った。

「そこに見張りを始終貼り付けているし、あの宿屋の娘を毎日通わせるからね。下手なまねしないでよ」

「あの子がここへ来るの?」

「宿屋を手伝いながら、夜にここの雑用やってるんだよ」

「そうだったの」

「まぁ、彼女は見張りというより、君が寂しがらないように話し相手になってもらってるつもりだからさ。まぁ、気楽にしててよ」

「人質に言うせりふじゃないわね」

吉田はまた、からからと笑った。

「夜は一緒に食事しよう。僕は出掛けるから、大人しくしててね」

まだ何か言いたげなを無視して、吉田は離れを後にする。向かった先は、料亭の一室だった。

そこで待っていたのは、藍色の着物を着た長髪の男と、白いぬいぐるみのような地球外生命体だった。

「これは、どういうことだ? 吉田殿」

あの離れの様子を知ることのできる唯一の場所、料亭の2階にある一室で、心底不機嫌そうにそう言ったのは桂だった。

ある程度予想していたこととはいえ、あまりにあからさまなそれに、吉田は苦笑して、頭を掻いた。

「嫌だなぁ。そんな怖い顔しないでよ、桂さん」

「なぜがこんなところにいるんだ? 答えろ」

「たまたま知り合ったんだよ」

「たまたま会っただけでなぜを拉致監禁するようなことになるんだ?」

「出会ったのは全くの偶然だったんだ。高杉や桂さんの知り合いだって分かったら、いろいろ積もる話もしてみたいじゃないか」

「まさか、それだけが理由ではあるまい? そしてなぜ、俺をここに呼んだ?」

「さすが、戦乱を生き抜いた狂乱の貴公子は鋭いなぁ」

「茶化すな。俺はここに遊びに来たのではない」

桂は勢い余って腰の刀に手を掛ける。隣に立つエリザベスも何のつもりだろうか、「やんのかオラァ」と書かれた立て看板を振り上げた。吉田は両手を広げて言った。

「単刀直入に言わせてもらうよ。あの作戦を決行したい。力を貸してほしい」

「……力を貸すといえば、彼女を解放するというのか?」

「あぁ。約束しよう」

「貸さぬと言ったら、どうする?」

「彼女を斬る」

吉田は表情を変えずにそう言い切った。その声音に吉田の本気を感じ取って、桂は戦慄する。吉田という男はこう見えて、相当の実力者で切れ者だ。この男なら、本当にあの計画を決行するだろう。桂がずっと反対し続けてきた、あのおぞましい計画を。

けれどを人質に取られてしまった今、桂はどうすればいいのか分からなくなった。吉田をじっと睨みつけながら、桂はぎゅっと拳を握り締めた。




20141124