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銀時は江戸中をスクーターで駆け回り、を探している。そんな銀時をひとりにすることができなくて、新八はしがみつくようにして銀時の背に捕まっていた。

土方を殴り飛ばし恫喝した銀時は、本当に怖かった。あんな風に全身で怒りを表す銀時は本当に珍しくて、新八も数える程しか見たことがなかった。

子どもの頃からの知り合いだというが行方不明と聞いて、平常心を保てなくなったのだということは分かる。けれど、あんな風に土方に怒りを表す銀時は初めて見た。いつも小さなくだらないことでいがみ合っているふたりだけれど、銀時から一方的に土方を殴るだなんて、これが初めてなのではないだろうか。

新八は銀時の横顔を後ろから見上げるように見つめる。ヘルメットとゴーグルに隠れてその表情はよく分からなかったけれど、ひしひしと怒りの気配が伝わってくる。

「……銀さん! 少し休みませんか!? 走りっぱなしじゃないですか!!」

新八は、風を切る音に負けじと声を張り上げる。銀時は返事をしなかったけれど、次の信号が赤に変わって、交差点で停車した。

「銀さん。大丈夫ですか?」

新八の声に、銀時は答えない。じっと唇をかみしめて、何かに耐えているような様子だった。新八は銀時の背中に触れながら、できる限り優しい声で言った。

さんなら、きっと大丈夫ですよ。絶対、無事に見つかります。みんなを、真選組を信じましょうよ。あの人たちだって普段はあんなだけど、ちゃんとした警察なんだから……」

「あんな野郎誰が信じられるってんだよ」

銀時は唸るように言った。

「……銀さん?」

「俺はな、あいつが幸せならそれで良かったんだ」

ハンドルを握る銀時の手は、白くなるほど力が篭っている。新八は青く血管が浮いたその腕を、じっと見ていた。

「あいつが選んで、あいつがそれで幸せだって言うんならそれで良かったんだよ。野郎は確かに気にくわねぇけど、金はあるし、顔もまぁいいし、世間的には優良株なんだろ? そういう条件が揃ってて、それであいつが幸せになれるっていうんなら、それで良かったんだよ。けど……」

ゴーグルの下で、銀時の目がぎらりと光るのを、新八は見た。白夜叉と呼ばれていた頃の銀時はこんな目をしていたのだろうか。そんなことを考えさせる、強い目の光だった。

「何でがこんな目に合わなきゃならねぇんだよ……!」

新八は、何も言い返せなかった。

銀時の昔話を、新八は知らない。攘夷戦争時代からの友人だという桂や坂本は、本当に戦争なんかに参加していたのか疑わしいくらいふざけた人達で、それは銀時もそうなのだろうけれど、そうやって超えてきた苦難を知るは、銀時にとってどれだけ貴重な存在なのだろう。

これまで新八は、銀時はに甘えていると思っていた。よく食事をおごってもらったり、差し入れをもらったり、夕食を作ってもらったり、何もそこまでしてやらなくてもと思えることまで、は銀時にしてくれる。

けれどそれは、銀時を甘やかしているのではなくて、銀時のことを精一杯大事にしようとしていたからなのではないだろうか。は攘夷戦争に参加する銀時たちを見捨てて、江戸に出てきたのだという。銀時たちが一番辛い時期にそばにいなかったことを悔いているから、銀時にあんなに優しくしてくれているのではないだろうか。

だとしたら、新八には何も言えなかった。銀時やが失ってきたものを、新八は何も知らないのだ。

銀時が、自分が守らなくてはいけないものを必死で守り抜こうとするなら、その手助けを精一杯しよう。新八はそう心に決めて、スクーターを発進させる銀時の背中に誓った。




20141124