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真選組屯所にはあまり使われていない蔵がある。普段使わない家具や家電がしまってあるのだが、今はそこに、縛り上げられた男が天井から宙吊りになっていた。男の真下には水が湛えられた桶があって、水攻めにあった男は苦しそうに喘ぐ。その様を鋭い眼差しで見つめているのは、他でもない土方だった。

いっそ凄惨な拷問の有様を見るに耐えかねて、藤堂は蔵の外に出た。警備のために控えていた原田と永倉は、青い顔をした藤堂の肩を叩いて労った。

「お疲れ。どうだった? 土方さんの様子は?」

「相変わらずおっかねぇよ。鬼の副長とはよく言ったもんだよなぁ。小便ちびるとこだった」

蔵の中から響いてくる痛烈な悲鳴が聞こえてくる。3人は背筋に冷たいもの感じながら、蔵から適度な距離をとって腰を落ち着ける。

そもそも、こういう尋問を超えた拷問は土方が得意とするところで、それを初めて見た時は誰もが夜眠れなくなるほどのものなのだが、今回はいつも以上に激しい。の命がかかっているのだから、土方もそうせざるを得ないのかもしれない。

「副長、大丈夫かな」

ふいに、永倉が呟いた。

「副長がどうかしたのか?」

原田が言う。

「いや、何ていうか、いつもより余裕がない感じがすんだよ」

さんが行方不明になってんだから、そりゃぁ余裕なんかないだろ?」

藤堂が口を挟む。

「そうかもしれないけどさ。いつもはもっと冷静で、頭に血ぃ昇った俺たちのブレーキになってくれてる人なのに……。仕事ぶりはいつもどおりだけど、何ていうかこう、我慢してる気がすんだよなぁ」

「我慢?」

「きっとさ、副長なんて立場に縛られずに、なり振り構わずさんのこと探し回りたいんだと思うんだよね。けどそういうわけに行かないじゃん。やるせないんだろうなと思ってさ」

「そうだな。……けれど、それだけ何だろうか?」

原田は蔵を見上げて、腕を組む。

土方に余裕がないのはそうなんだろうし、真選組全体のことを考えて押し殺した気持ちがあるのも本当だろう。けれど今の土方には、それだけでは説明できない凄みのようなものがある。その正体が何なのか、原田たちには想像もできない。

ただ、土方にとってがどんな存在なのか、それだけはほんの少し想像できる。

原田たちは、日常的に土方とがふたりでいる姿をよく知っている。は何か特別なことをするわけでもなく、ただ土方の隣でにこにこと笑っていて、土方はの前では心なしか穏やかに目を細くする。たったそれだけのことなのに、そうしているだけでふたりは完璧だった。まるで、お互いそれとしかぴったり合わないパズルのピースのように。

きっと土方にしか分からない苦しみが、土方をあんな風に駆り立てるのだろう。

原田はぎゅっと眉間に皺を寄せる。そもそもあの時、自分がをひとり残していかなければこんなことにはならなかった。自分一人の責任ではないことも重々分かっているし、誰も原田を責めたりなじったりしないことも、よく理解している。けれど、が無事に戻ってくるまでは後悔し続けるし、それが原田の原動力になっている。

ふと、藤堂が原田の肩を叩いた。

「絶対、見つけてやろうな」

藤堂の気遣いを感じ取って、原田はにかりと笑った。

「あぁ、そうだな」

その時、蔵の扉が重い音を立てて開いた。

「副長……!」

入口に立った土方を囲んで、3人は顔を強ばらせる。土方は鬼のような形相で、唸るように言った。

「近藤さんと沖田を呼べ」

「副長、あいつは、吐いたんですか……?」

「あぁ。すぐ会議だ。お前たちも来い」

「……はい!」

早足で屯所の母屋へ向かう土方の後を追う。ふと、藤堂は開いた扉の向こうに目をやった。薄暗い蔵の中、土の床の上で、男が縛られたままのたうち回っている。何かがおかしい。藤堂は目を凝らして、それに気づくやいなや目を見開いた。男は片方の耳を削ぎ落とされ、全ての指があらぬ方向に曲がり、足の指が全てなくなっていた。




20141124