15 沖田は一番隊大使10名を率いて、江戸のはずれにある宿の前に立った。昼日中、宿はしんと静まり返っている。 隊の内3人を宿の裏口に回し、沖田は7人の隊士と表玄関に立つ。息を潜め、踏み込む気を伺う。外からは宿の中の様子までは分からない。一か八かの勝負だ。 沖田は神妙な顔で言った。 「抵抗すれば斬ってよし。ただ、目的はあくまでも捕縛だ。分かってるな?」 「押忍!」 「さんが囚われてる可能性もある。さんの身の安全を最優先に考えろよ」 「よぉし! やったるかぁ!! 攘夷志士だろうが何だろうが何でも来いヨオラァ!!」 沖田の隣に立つ桃色の髪のチャイナ娘を囲んで、真選組隊士は一様に妙な顔をした。神楽は番傘を肩に抱えて、酢昆布をかじりながら不敵に笑った。 「……何で、てめぇがここにいるんだよ?」 「いたら悪いアルか?」 「どこで嗅ぎつけてきやがったんでぇ?」 「銀ちゃんがお前らに捕まってて暇だったからナ」 「おい、こっからは遊びじゃねぇんだぞ。お子様はさっさと帰んな」 「がここにいるアルか?」 神楽の問いに、沖田は言葉に詰まった。が行方不明になっていることはまだ公にしていない。しまったと、思う。不意なこととは言え、神楽にバレてしまった。 「何でがこんなところにいるアル? お前ら、爆弾テロの犯人追ってたんじゃないアルか?」 「……あんま、余計な詮索すんなよ。ガキンチョ」 沖田は刀を握りしめ、神楽を睨みつけた。 神楽は真っ直ぐに沖田を睨み返す。何度も刃を交えてきたふたりが醸し出すその不穏な空気に、隊士達は怖気づいた。二人の間には、火花が散るどころか、黒い炎が上がっているようにさえ見える。 神楽は腰に手を当てて、声を低くした。 「何で、がこんなところにいるアル?」 「お前に関係ねぇだろ。ガキはお家で犬とじゃれてな」 「いやアル。話してくれるまで帰らないネ」 じっと睨み合うふたりに、隊士達は何も言葉をかけられない。 沖田は神楽を見下ろしながら考えた。ここで何も話さなくても、神楽は万事屋の面々にこのことを話すだろう。土方はプライドにかけて、銀時の手を借りずにを救い出したいと思っている。そのことはよく分かっている。けれど、土方のそんなくだらないプライドのためにが危険な目に遭う確率が上がるなら、そんなもの糞くらえだ。 沖田は鞘から刀を引き抜くと、決然と言った。 「てめぇのたまは自分で守れよ」 神楽は沖田が見据える宿を睨みあげた。 「お前もナ」 けれど、宿には目当ての攘夷志士は人っ子一人見当たらず、宿泊客もいなかった。いたのは女将とその娘だけで、ふたりの話によれば、昨日まで男と女がひとりずつ宿泊していたが、つい先程宿を立ったという。その行き先も知らされておらず、心当たりもないと女将は言った。 念のため、宿を隅々まで検めたけれど、人が隠れられそうな場所はなく、ただ、女が縫ったという色とりどりの雑巾だけが、掃き集められた紅葉の葉のように部屋の隅に積み重なっていた。 20141124 |