13 「岩城屋とは、手を切る」 吉田は決然と言った。 狭い部屋の中で膝を突き合わせるように座った徒勇隊の面々は、厳しい表情で唸った。 「さっき、岩城屋と会ってきた。あんなヘマやらかすようじゃ、これ以上支援はできないとさ」 「説得できなかったのか?」 「どうやら、真選組が岩城屋を嗅ぎまわってるらしいんだ。危険な橋は渡りたくないんだろうよ」 「せっかくここまで来たというのに……!」 志士の一人が、苦々しく膝を打った。 「古高は? 何か情報は入っていないのか?」 「真選組に捕らわれてそれっきりだ。あいつは訓練を受けているし、そう簡単に計画を漏らすとは思えない」 「けれど時間の問題だろう。囚われてもう3日目だ。あの爆破が一度きりでは済まないと考えているから、真選組は厳戒態勢を解かないのだろうしな」 「古高は徹底的に痛めつけられ、吐かされると思っていた方がいい」 「やはり、江戸を出るべきだろうか?」 「しかし、あの大量の火薬をどうする? せっかくここまで準備ができたと言うのに、あれだけ金をかけて集めたものを投げうつというのか?」 「とても、我々だけで運び出せる量ではないしな……」 額を付き合わせて真剣に話し合いが進むものの、吉田は口出ししなかった。 どの口から出る言葉も、計画を取りやめる方向へ動いている。無論、吉田はそんなつもりはなかった。こちらには隠し玉があるのだ。 全員の意見が出きったところで、吉田は音高く膝を打った。 「さて、ここで提案がある」 全員の視線が吉田に集まった。吉田はいつもの人のいい笑顔を浮かべて言った。 「いっちょ、賭けをしてみないか?」 吉田と向かいの部屋にいたは、耳を澄ませてその言葉を聞いた。がここにいることを忘れたはずはないから、わざと聞かせているのだろう。膝の上に縫いかけの雑巾を乗せて、はじっと目を閉じる。 ついさっき、宿に銀時と新八が来た。あの黒い毛並みの犬を引き取りに。2階の窓からその様子を眺めていたは、祈るような思いで銀時をじっと見つめていた。帰り際、銀時がこちらを見たような気がしたけれど、に気づいたかどうかは分からなかった。 は手遊びに縫った大量の雑巾を見やって、その山を撫でる。赤い糸で縫った、紅葉のような色どりの雑巾。 あの犬の赤い首輪に、赤い糸で編んだ紐を隠しておいたのは無駄ではなかった。紐には、の名前と宿屋と吉田の名前を細く書き込んだトイレットペーパーを仕込んだ。誰にも見られずに文字をしたためるのは苦労がいったし、もし雨でも降ったら一貫の終わりだけれど、何もしないよりましだ。銀時がその紐に気づいてくれればいい。 けれど、吉田は賭けをしたらしい。吉田が勝つか、が勝つか。結果はどうなるか分からない。 はただ、銀時の無事を祈った。 20141124 |