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新八が持つ写真と、宿屋の女将が抱き上げた黒い毛並みのプードルは、同じ角度に首を傾げている。赤い首輪に、特徴的なぴょんとはねた耳を見れば、間違いなく同じ犬だと分かる。

「やっぱり。この子で間違いなさそうですね」

探していた迷い犬、ベティの頭を撫でて新八が言った。隣に立つ銀時は、死んだ魚のような目をして女将に聞いた。

「この犬、どっかで拾ったのか?」

女将はにこにこ笑って答えた。

「いえね、こちらにお泊まりの方が雨に濡れてたところを不憫に思って連れてきたんですよ。私もそういうのに弱くてねぇ。飼い主の方が見つかって良かったわ」

「保護してくださってたんですね、ありがとうございます。依頼主の方にも女将さんのこと、伝えておきますね」

「いいんですよ、そんなこと」

女将はほほほと笑って、ベティを新八に渡した。

「よかったですね、銀さん。これで今月分の家賃も払えますよ」

「おぉ、そうだな」

「良ければ、お茶などお出ししますよ。どうぞ休んでいってください」

「いいえ、そんな、お構いなく……」

「ただいま、女将。お客さん?」

と、あっけらかんとした声で宿に戻ってきたのは、人の良さそうな顔をした優男だった。後ろに男が数人立っていて、雰囲気がどこか物々しい。銀時はつい、腰に差した木刀の柄を左手で握り締めた。

「お戻りなさいまし。今日はお早いんですねぇ」

「あぁ。悪いが、茶を頼む。おや、その犬の飼い主さん?」

男は新八が抱いたベティの頭を、親しみを込めて撫でた。

「迎えに来てもらったのか? よかったなぁ」

「いいえ、僕らはこの子を探すように依頼されたんです。本当の飼い主さんに、これから届けに行くところなんです」

「あぁ、なるほど。そうだったか」

「お侍さん、この方がその子を拾ってくださったんですよ」

「そうだったんですか! ありがとうございます!」

男はへらりと笑って、照れたように頬をかいた。

「いえいえ、そんな。短い間でしたけど、仲良くさせてもらって楽しかったですよ」

「あの、良ければお名前を伺ってもいいですか? 依頼主の方にお伝えしたいので……」

「名乗る程の者ではありませんよ」

「え? けど……」

「新八」

銀時は新八の言葉を強い口調で遮った。その得体の知れない気迫。新八はつい肩を強ばらせた。

「……銀さん?」

「あんまりしつこくすんじゃねぇよ。ヤンデレの彼女かお前は」

「だ、誰がヤンデレですか!?」

「そういうわけで、こいつは連れてきますんでぇ。それじゃ」

銀時はそっけなく挨拶をして踵を返す。新八は慌てて一礼をして、銀時の後を追った。

「銀さん? 一体どうしたんですか?」

「別に。犬は見つけたんだから長居することねぇだろ」

「それにしても、もうちょっと愛想よくしたらどうなんですか? この子を保護してくれた人なんだから」

銀時は宿から充分距離をとってから、宿を振り返った。民家のような小さな宿だ。2階建てで、おそらく1階が女将とその家族の住居、2階が客室だろう。広さからみて、客室数は6より多くはない。秋晴れのいい日和なのに、どの窓も締め切ってある。

あのへらへらした男、あの風体から想像しにくいが、帯刀していたところをみると攘夷志士だろう。後ろにくっついていた男達も気性の荒そうな輩だった。大江戸デパート爆破テロ事件があってから、世の中物騒になっている。だから、こんなに気になるのだろうか。

「銀さん? どうかしましたか?」

新八が銀時の顔を覗き込んで言う。

「……いや、何でもない」

銀時は2階の窓ガラスがちらりと揺れるのを見た気がした。それが何だか確かめる術は何もなかったけれど。




20141124