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少女は、の真正面に座って、着物を繕っている。手際が良く、和裁がきっととても得意で好きなのだろうなということが、1日のほとんどをいっしょに過ごしているにはよく分かった。まだ17歳だという少女は、桃色に透き通る肌が、とても美しかった。

「吉田さんが何をしようとしているのか、あなたは知っているの?」

ぞうきんを縫いながら、は尋ねた。

「知っていますけれど、誰かとお話ししているのをかいつまんで立ち聞きしただけですよ」

「どんな話を聞いたか、教えてくれる?」

「それはできません。吉田さんからお金をいただいていますから、約束は破れませんもの」

「そう」

色とりどりのはぎれを真っ赤な糸で縫い合わせる。完成して籠の中にあふれているぞうきんは、吉原の遊女にも負けず劣らず、華麗に美しい。まるで、紅葉した葉が道を埋め尽くしたときのようだった。

「逃げ出したいですか?」

少女が言った。

「私は不器用だし、あなたの見張りを振り切って逃げるなんてできないわ」

苦笑しながら、は答えた。

「でも、早く家に帰りたい」

そう、早く屯所に帰りたかった。が「家」というのは、が真選組に関わる人間だということに、吉田がまだ気づいていないからだ。高杉の昔の女だとして利用しようとしているようだけれど、真選組の名前が出れば事態はもっとこじれてしまうだろう。この情報は、切り札としてとっておきたかった。

さんには家族がいるの?」

少女が言った。は微笑みを口元に貼り付けて、答えた。

「どうして?」

「家に帰りたいって、言うんだもの」

「自分が安心してそこに居られる場所に帰りたいのよ。友達もいるし。ここじゃそうはいかないんだもの。家族はいないわ」

「私も、そうなんです」

突然の告白に、はあっけにとられた。少女は変わらない微笑みを浮かべて、繕い物をする手を止めない。

「女将さんは、私の実の母親じゃありません。孤児だった私を、吉田さんが拾ってくださって、ここにつれてきてくださったんです。女将さんは娘さんを病で亡くしたばかりだったそうで、私のことを実の子どものように育ててくださったんです。だから私は、私を助けてくれた吉田さんを手伝いたいし、女将さんを助けたいんです。吉田さんは攘夷志士だから、もしかしたら、これから危ない目にあうこともあるのかもしれません。でも、吉田さんのためなら、私はどんな危険も顧みないつもりです。……さんには、悪いけれど」

少女の語る物語は、にとっても馴染み深いものだった。ひとりぼっちだった自分を拾って育ててくれた松陽、受け入れてくれた家族。そして今、自分を守ろうと、救い出そうとしてくれている人たちがいる。その人たちのためなら、真選組の、土方のためなら、どんな危険も乗り越えていこう。そして、必ずあの人の隣へ帰るのだ。

はここへきて初めて、心から微笑んだ。

「それは、本当に、良かったわね」

少女は心から幸せそうに笑った。

「はい」




20141124