07






迷い犬を探して街を歩き回っていた神楽は、道端で桂と遭遇した。桂は目深に笠をかぶって僧侶の扮装をしていて、隣にはエリザベスがぼんやり立っていた。

「おや、リーダー。久しぶりだな」

「おぉ、ヅラ」

「ヅラじゃない、桂だ。こんなところで何をしている?」

「仕事アル。この犬探してるんだけど、見なかったアルか?」

神楽は、黒い毛並みの子犬を抱いてにっこりと笑っている少女の写真を差し出した。桂はそれをまじまじと眺めてから神楽に返した。

「悪いが、知らんな。迷い犬か?」

「散歩の途中で逃げちゃったんだって。もういなくなって3日も経つアル。どっかで野垂れ死んでないといいんだけど……」

神楽は落ち込んで肩を落とす。桂は苦笑して、その肩を優しく叩いてやった。

「3日程度飲み食いしなくても、犬は死んだりせん。飼い主が待っているのだろう? 諦めずに探してやれ」

「うん。ヅラは? こんなところで何してるアルか?」

「ヅラじゃない、桂だ」

桂は笠の下で視線を鋭くする。ただここに立っているだけでも目的はあるのだが、銀時ならともかく神楽にそれを告げる訳にもいかない。ただでさえ、今は真選組の動きが慌ただしく、派手に動けないのだ。

「人と会う約束をしていてな、待ち合わせだ」

「ふぅん」

神楽はポケットから酢昆布を取り出してひとつ口に咥えると、じゃぁなと言って去っていった。去り際に、定春がエリザベスを威嚇して一声吠えた。

「誰? 今のかわいこちゃん?」

桂の背後、塀を挟んだ向こう側から声がした。桂は錫杖をしゃらりと鳴らす。

「お前に教えてやる義理はない」

「冷たいなぁ。それとも、怒ってる?」

天気の話でもするようなその口振りに、桂は眉を吊り上げた。こんな状況だというのに、この男には緊張感のかけらもない。もともと何を考えているのか分からないところがある男だが、その真意が分からないことが、桂には不安の種だった。

「この状況でへらへら笑っていられるお前の方がどうかしてる」

「いやぁ、もうこうなっちゃったら笑うしかないだろ?」

「真選組に、攘夷志士がひとり捕縛されたぞ。何でも、昨日の大江戸デパート爆破テロ事件の実行犯だそうだ」

「古高だな。火薬の輸送中にへましやがったんだ」

「あれは徒勇隊の計画にはなかったというのか?」

「完全なミスだよ。それについては否定しねぇ。悪かった」

「これからどうするつもりだ? 真選組に計画を嗅ぎつけられるのは時間の問題だぞ?」

「あれ? あんたはあの計画には反対してたんじゃなかったっけ?」

「それは今も変わらん。ただ、貴重な人材をこんなことのために失うわけにはいかんのだ」

塀の向こうで、男は笑った。何がそんなにおかしいのか、のどの奥から湧き上がるものを堪えるように笑っていた。

桂はその笑い声にかぶせるように宣告する。

「悪いことは言わん。お前、このまま江戸を出ろ。体制を立て直してから、また戻ってくればいい」

「いやいや、そんな訳にはいかないよ。実は、ひとつでかい隠し玉を手に入れたんだ」

「隠し玉?」

「まぁ、見てろよ。きっとうまくやって見せる」

「おい、お前……」

桂の静止の声は塀の向こうには届かなかった。




20141124