05






一夜が明けた。

は部屋の窓を開けて、ぼんやりと外の景色を眺めている。子どもが寺子屋に通う笑い声が響いてくる。

ここは吉田の部屋の真向かいにあたる客室で、に当てがわれた部屋だ。逃げ出そうとすれば、すぐに吉田に感づかれてしまうし、そこをやり過ごしても、宿の女将とその娘が階下に住んでいて、ふたりの目をかいくぐって抜け出すのは不可能だ。つまりはこの部屋に軟禁されていることになる。

こんな状況に陥るのは初めてのことで、は正直、ぐうの音も出なかった。八方塞がりとはまさにこのことだ。何をどうすればいいのか、見当もつかない。

家に帰してくれと吉田に頼んではみたけれど、もちろん歯牙にもかけられなかった。をどう利用するつもりなのか問いただしても、はっきりした答えは得られなかった。

今頃、真選組はどんな様子だろう。連絡もせずに屯所に帰らなかったことが今まで一度もないし、原田と出掛けていた途中であんな事件に巻き込まれてしまったのだから、原田が責任を問われることになるのかもしれない。

土方はどうしているだろうか。あの動乱以来、に対する心配が度を越していた。時間が経てば心配しなくても大丈夫だとわかってくれると思っていたけれど、こんなことになってしまってはさらに拍車がかかってしまいそうだ。しかも十番隊隊長がいっしょにいたのに、これではもっと締め付けが厳しくなるかもしれない。

何があっても、土方のそばにいると決めたのに、あっさり知らない男についてきてあげく軟禁されてしまった。今時、小さな子どもでもそんなことしない。

あんなことがあったのに、それでも自分は大丈夫だと高を括っていたのかもしれない。真選組のみんなが自分を守ってくれると過信していたのだろうか。いや、そんなこと思っていたわけじゃない。みんなのことはとても頼りにしているけれど、重荷にはなりたくなかった。自分には自分だけの役割があって、それは日々の食事の支度だったり、洗濯や掃除だったりする。けれどそれだけじゃなくて、何気ない朝の挨拶やくだらない世間話をすることとか、そんな小さなことを何よりも大切にしてきたつもりだった。

たったそれだけのことができなくなってしまう。そう思うと、とてつもない無力感が襲ってきた。自分はしょせん、その程度の人間なのだ。

「……はぁ」

は、窓の外に投げるようにため息をついた。

空には羊雲が群れをなしていて、風が気持ちいい。庭に宿の女将がいて、池の鯉に餌をやっている。遠くから、宇宙船が空を滑空する重低音が響いてくる。

「失礼します。お茶はいかがですか?」

襖の向こうから、少女の声がした。

「どうぞ」

少女は茶器を運び入れ、ちゃぶ台の上にひとつひとつ並べていく。まだ十代だろうか。が吉田に捕らえられていることを知らないはずはないのだけれど、その表情は穏やかだ。

「お茶とご一緒に、お菓子はいかがですか? 美味しい干菓子があるんです」

「ありがとうございます。でも、今は結構です」

「では、こちらにしまっておきますね」

並べられた茶器は、薄い水色に金魚があしらわれた揃いのもので、少女によく似合っていた。それだけで部屋の中がぱっと明るくなったような気がした。きっと部屋に閉じ込められているを気遣っているのだろう。

少女は立ち上がると、の背中に手を伸ばして、静かに窓を閉めた。

「すいませんが、窓は閉めてくださいね」

「え?」

「あなたは、軟禁されてる身なんですから」

穏やかな笑顔で、少女は静かにそう言った。




20141124