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爆破テロがあったというデパートに駆けつけた土方は、鎮火したフロアに足を踏み入れた。まだ焦げ臭い匂いが立ち込めている。怪我人はもう搬送されていて、人気のない荒れたデパートは嵐が過ぎ去った後のようだった。

「この程度で収まってよかった、ってとこですかねぇ」

沖田が辺りを見回しながら言った。

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。こんな街のど真ん中で爆破テロだぞ。どこの過激派攘夷志士の仕業だ?」

土方は苦々しく言った。こんな派手なパフォーマンスをする攘夷志士に心当たりがないことが気に障ったのだ。監察方を使って日々攘夷志士の情報を集めているが、こんなことをやりかねないグループの情報など今まで耳に入ってこなかった。真選組の管轄内でこんなことをされては面目丸つぶれだ。

「調べはどこまで進んでる?」

「死者、怪我人多数ってだけで、まだ詳しいことは分からないですねぇ。あ、たまたま原田が居合わせていて、犯人らしい人物は取り押さえたらしいですぜぃ?」

「原田が?」

「あ、副長! 沖田隊長! ご苦労様です!」

そこへ現れた原田は、煤で汚れた顔で大声を出した。ただでさえ体も声もでかく、頑丈なだけが取り柄のような男だが、どうやら怪我はないようだった。

「おぉ、原田。犯人取り押さえたって?」

土方が言った。

「はい。たまたま居合わせまして、爆発直後に付近にいた怪しい男を取り押さえました。やけにでかい荷物持ってると思ったら、持ち物から火薬が出てきまして、今、向こうで取り調べてます」

「そうか。ご苦労だったな、後はこっちでやるから、もういいぞ」

「はい。あ、すいません、副長。さんを見かけませんでしたか?」

原田の言葉に、土方は肩を強ばらせた。その不穏な空気を感じ取って、原田と沖田はぞっとする。真選組動乱事件以来、土方はの身の安全について異常なほど過敏に反応するようになった。それはいっそ、狂気の沙汰と言ってもいいほどだった。

が、どうしたって?」

原田は額に脂汗を浮かべながら、しどろもどろに答えた。

「い、いいえ、あの、今日は俺が付き添って買い物に来てまして、爆発があったあとすぐに外に避難させたんですが……」

「おい総悟。は外にいたか?」

「さぁ? 見てませんねぇ」

土方はドスの効いた低い声で言った。

「原田」

「は、はい!」

「探せ。見つけたらさっさと屯所に連れて帰れ」

「は、はい!」

原田は礼もそこそこに全速力で外に駆け出していった。

沖田はそれを見送ってから、土方の横顔を見上げて、驚いた。もっと鬼のような形相で怒りをあらわにしているかと思ったら、ただひたすら不安そうに眉根を寄せて歯を食いしばっていた。

何もそこまで心配しなくても、という言葉を、沖田は飲み込む。わざわざ沖田が土方を慰めてやらなくても、屯所に戻ればはいつも通りの笑顔で土方を迎えてくれるだろうし、なんでもない大丈夫だと言って、いつもどおり隊士たちに夕食を振舞ってくれるだろう。

そもそも土方を慰めてやるなぞ、考えるだけでヘドが出る。沖田は、さっさと奥へ足を進めた。これから、爆弾テロの犯人の顔を拝んでやらなければならない。

「土方さん、早く来ないと置いてきますよ」

土方は苦々しくタバコの煙を吐いて毒付いた。

は原田に任せて、こっちの仕事を早く終わらせよう。夜、屯所に戻って顔を見て、そうすればきっと安心できる。それまでの辛抱だ。土方はそう自分に言い聞かせた。

けれどその夜、は屯所に戻らなかった。原田をはじめ、隊士たちが血眼になってデパートの周辺を探し回ったけれど、見つからなかった。デパートの片隅にが買った布地が打ち捨てられているのを原田が発見して、さらに事態は深刻になった。

この夜、真選組屯所に、かつてない激震が走った。が行方不明になったのだ。




20141124