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デパートの外へ出たは、人で溢れかえる道路の片隅で荒くなった息を整える。一緒に逃げてきた男は、深刻な顔をしてデパートを見上げながら、を気遣って言った。

「大丈夫ですか?」

「えぇ。ありがとうございます、助かりました」

は胸を抑えながら、男に向かって会釈した。男は照れたように笑って、軽く手を振ってみせた。

「いいえ。こっちこそ、急いでいたとは言え、女性を吹っ飛ばしてしまって本当に申し訳ない」

柔らかい笑顔の男だと、は思った。ざんばらの黒髪で、背が高い。着物はごく一般的な袴で、帯刀していた。幕臣だろうか。

パトカーと消防車が沿道に次々と停る。たくさんの野次馬がデパートを囲んでいて、一体何がどうなっているかさっぱり分からない。けれど、真選組の隊服がちらほらと見えて、はほっと胸をなでおろした。これで原田もきっと大丈夫だろう。

「それじゃぁ、僕はこれで……」

そんなを尻目に、男はそう言ってじりと後ずさった。

「あ、待ってください! せめて、お名前を教えていただけませんか? 助けていただいたお礼に……」

「いえいえ、そんな名乗る程の者では……」

男は何をそんなに焦っているのか、今すぐここから逃げ出さんばかりの様子だったので、は思わずその服の袖を掴んだ。

「そんなこと言わないでください!」

「いえいえいえ! 本当お礼とか! そんなのいいですから!」

「それじゃぁ私の気がおさまりません! 私、と申します」

「え? ?」

名乗るなり、男の顔色を変えた。なぜ名前を聞いただけでそんな驚かれるのか、は皆目見当もつかない。

「私のこと、ご存知なんですか?」

男は驚きのあまり、金魚のように口をぱくぱくさせる。が掴んだ袖を振り払うこともできないようだ。

「あの……?」

男は突然、を指差して叫んだ。

「あ、あんた、あのか!?」

「え? どの?」

は首を傾げたけれど、男はそれに答えるでもなく、ひとり頭を抱えて口の中でもごもごと言葉にならない何事かをしどろもどろに呟いている。何かフォローすべきだろうかとも頭をひねったけれど、そもそも一体何にそんなに悩んでいるのか分からない。

男はしばらく悩んだ後、思い切ったように大声で言った。

「分かった! 助けてやったお礼してくれ!」

その大声に釣られて、も声を大きくした。

「はい! もちろん!」

「そうと決まったら行こう! さっさと行こう!」

男は有無を言わさずの手をぐいと引いた。煙が上がるデパートに群がる野次馬はどんどん増え続けていて、男はそれに逆行するように早足で歩いた。は男のスピードについていくので必死で、一体これからどこへ連れて行かれるのかとか、何をさせられるのかとか、何一つ考えることもできなかった。




20141124