01 日曜日のデパートは人波で溢れている。それをかき分けるように通路を歩きながら、は隣を歩く原田に言った。 「せっかくのお休みなのに、付き合わせちゃってごめんなさいね」 「いいんですよ。むしろ、俺なんかが付き添いですいません」 私服姿に帯刀している原田は快活に笑った。原田は紙袋をひとつ手に持っていて、その中には綿の布地が入っている。 「そんなことないわよ。こっちこそ、十番隊隊長を荷物持ちなんかに使っちゃって」 「どんどん使ってください。そのための付き添いなんですから」 原田は得意げに紙袋を持ち上げて見せたので、は「本当、頼もしい」と言って笑った。 原田はこう言うけれど、真選組隊士がの買い物に付き合う理由は別にある。真選組副長である土方が、をひとりで外出させることを嫌がっているのだ。きっかけは、伊東鴨太郎を主犯とした真選組動乱だった。この動乱で、土方と懇意にしているが、近藤と土方の暗殺に利用された。そんなことは二度とあってはならないと、が外出する際は隊士が付きそうという、暗黙のルールができたのだ。 どこへ行くにも隊士に付き添われるとあっては、不自由を感じていないはずはないけれど、は土方の気持ちを慮って、何も言わずにその取り決めに従っていた。 「この布、何に使うんですか?」 原田は紙袋の中を覗き込んで聞いた。 「皆の打粉を作ろうと思ってね」 打粉とは、刀の手入れに使う道具だ。砥石を細かく砕いた粉を和紙と綿の布で丸くくるみ取っ手をつけたもので、刀の汚れを拭き取った後、これでぽんぽんと叩くと白い粉が出る。この上から油を引くと、刀が錆びにくくなるのだ。 「皆って、隊士全員分ですか!?」 「だって、皆ぼろぼろのもの使ってるんだもの。気になっちゃって」 「さん……。そこまで俺たちのことを考えてくださってるんですね……!」 原田は目を潤ませながら、原田はぎゅっと紙袋を抱きしめた。 はそんな原田を見て笑って、その腕をぽんぽんと叩いてやった。 「そんな泣くほどのことじゃないでしょ?」 「いやぁ、すいません。最近涙もろくて……!」 原田がそう言って涙を拭ったときだった。大きな爆発音と悲鳴が上がり、直後に熱風と黒い煙が2人を襲った。 とっさに原田はをかばう。ただでさえ人の多い休日のデパートは一瞬で混乱する。逃げ惑う人、泣き叫ぶ子ども、店員が大声を上げて避難を誘導して、消化器を抱えて駆けていく。 「大丈夫ですか!? さん!?」 蜘蛛の子が散るように逃げていく人の中、原田はの肩を抱え込んで壁際に逃れ、その耳元で叫ぶ。突然のことに、何が起きたのか把握しきれていないは、訳が分からず目を白黒させながらなんとか答えた。 「え、えぇ。……一体何が……?」 「爆破テロかもしれません。俺は様子を見てきますから、さんは先に逃げてください」 「原田君は、ひとりで大丈夫なの?」 は不安げに原田を見上げる。原田はを安心させてやるために、にかりと大きく笑った。 「大丈夫ですよ! だてに十番隊隊長なんてやってませんって!」 「気をつけてね」 原田は刀の柄を握り締め、人波に逆らって火の手が上がる方向へ駆けていった。その背中を見送ってから、は人波に乗って避難する。原田はきっと大丈夫だと信じることしかできないのが心苦しかったけれど、それ以外にここでできることはないのだ。 店員が誘導している出入り口に向かう。親とはぐれたのだろうか、子どもが泣きながら立ち尽くしていて、手を貸してやろうかと迷った時だった。背中から誰かに勢いよくぶつかられてそのまま転んでしまった。 「すいません! 大丈夫ですか?」 「……あ、はい」 に手を差し伸べたのは、人の良さそうな顔した男だった。必死で逃げてきたのだろうか、汗だくだった。立ち上がるために手を借りると、その手も汗で湿っていた。 「怪我は?」 「大丈夫です。そちらは?」 「僕は全然! さぁ、早く逃げましょう。ここも危ない」 「はい」 男に手を引かれて、は必死に走った。パトカーと消防車のサイレンが聞こえる。きっとすぐに真選組も駆けつけてくることだろう。 この時、はまだ、これから起こる悲劇を知る由もなかった。 20141124 |