00 土方は、縁側で煙草を吸いながら、前庭の落ち葉を掃いているの姿を見ている。秋晴れのいい日和だ。街は不思議と静かで、心地よい風が吹いている。真選組にとっては商売上がったりな、平和な日だ。 隊士達は見廻りのためにほとんど出払っていて、待機組は屯所の中でめいめいに控えていることだろう。副長室の近くには、おそらく誰もいない。 今、とふたりきりだ。人に話を聞かれる心配もない。はなんの歌だか分からないが鼻歌を歌いながら竹箒を揺らしている。今日はずいぶん、機嫌がいいらしい。今なら、何を聞いても許されるような気がして、土方は覚悟を決めた。 「」 「はぁい」 は振り向きもせずに返事をした。それがなんだか面白くなくて、土方は渋面になる。 「」 もう一度名前を呼んだら、今度は振り向いた。 「なんですか?」 「ちょっといいか?」 は竹箒を持って、土方の正面に立つ。たすき掛けにした袖から伸びる腕が、細く白い。少しだけ斜めに首をかしげ、縁側に立つ土方を下から見上げている。 土方は縁側に腰を下ろして、にその隣をすすめた。は竹箒を立てかけて、土方の隣、拳ひとつ分ほどの感覚をあけて座った。 「どうしたんですか?」 「……いや」 とっさに言葉が出ず、土方は口ごもる。単刀直入に本題を切り出してもいいのか、それとも世間話でもして場を温めたほうがいいのか、そもそもそんなことができるほど器用でもないし、かといってこちらから声を掛けておいてだんまりというのもおかしな話だ。 「……いい天気だな」 「? そうですね」 土方は背中を丸めてため息をついた。一体自分は何をしているのだろう、情けない。 「せっかくのお休みなのに、どこかお出掛けしたりしないんですか?」 の方が気を遣って、そんな話題を振った。土方は煙草の煙をくゆらせて、つまらなさそうに答えた。 「いや、別に行きたいところもねぇしよ」 「それじゃぁ、庭掃除が終わったら一緒に買い物に行きませんか?」 はにこりと笑って、土方の顔を覗き込む。その笑顔の明るさにあてられて、土方は一気に気が抜けてしまった。 ずっと、に聞きたいことがある。聞いて、確かめたいことがある。それは土方の胸の中に秘められていて、まだ誰にも話したことがなかった。 けれど、はいつも笑っている。その笑顔を見るたびなんとも言えない安心感に包まれて、土方が自分勝手に考えている心配事や不安はどこか遠くへ追いやられてしまう。 が笑っているなら、余計なことはなにもせずに、ただ見守っていられればいい。はずっと土方の隣にいるのだし、これから先もきっとそうだ。過去を詮索するより、今、隣で笑っていてくれるがいるなら、それでいい。そんな風に思えて、土方は不安の種を胸にしまいこんだ。 「何か、必要なもんでもあるのか?」 「えぇ。破れた障子を張り替えるので、糊を」 「そんなもん誰かに買いに行かせろよ」 「あら、せっかく土方さんとお出掛けできると思ったのに」 土方はむっと唇を尖らせる。は楽しそうに笑って、跳ねるように立ち上がり竹箒を手に取った。 「すぐに終わりますから、待っていてくださいね」 鼻歌を歌いながら仕事に戻るの背中を眺めて、土方は頬杖をつく。あの笑顔をずっと守っていきたい。そのためにできることはなんでもしよう。不安はあるが、それがなんだ。 そう自分に言い聞かせて、煙草の煙を長く吐き出した。 20141124 |