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お父さんへ


お久しぶりです。です。元気にしていますか? 風邪など、ひいていませんか? なんて、お父さんには愚問でしょうか。きっといつものとおり、お腹から出る大きな声で笑いながら、お仕事に励んでいることと思います。

私は、元気です。病院にはまだ通っていますが、薬も減って、落ち込むことも少なくなりました。私が元気になれたのは、姉の玲が誘ってくれた、東京選抜サッカーチームでの活動がひとつの大きな要因です。この活動は、私にとって、とても有意義なものになりました。“有意義”という言葉を使うのは、なんだかしっくりこないのですが、これ以外にうまい言葉が見つかりません。

月に一度、同じ年代の男の子達がサッカーをする、その手伝いをするというのは、本当に大変な仕事でした。私は人見知りだし、夏はきらいだし、野外グラウンドで1日サッカーの練習に付き合う、というのは、もう、本当に、大変でした。

ぐちを言いたいわけではないのです。大変だったけれど、私はこの半年間を、とても幸せに過ごすことができたと思います。“幸せ”って言葉も、本当はしっくりきません。

この気持ちは、一体何なんでしょう。

東京選抜のメンバーみんなに出会って、私の世界は変わりました。世界は、こんなにも広く、自由で、そこを舞台に走り、ボールを蹴り、笑い合う彼らは、わたしの世界を広げてくれました。

彼らにとても感謝しています。

私を元気づけるような気の利いたことを言ってくれたとか、優しくしてくれたとか、そういうことがあったのではありません。彼らは彼ららしく、ただ自由にふるまっていました。ときどき、冷たい言葉をかけられたりもしました。いっしょにご飯を食べたこともあります。映画を見に行ったりもしました。そんな普通のことをして、たくさんの時間をいっしょに過ごしました。ただそれだけです。

“普通”のことをする。それが、今までの私に一番足りなかったものなのではないかと思います。

私は、お父さんと一緒にサッカーをしたことがありません。けれど、いっしょにご飯を食べたり、映画を見に行ったり、そんな普通のことをした記憶も、ありません。

お父さんは、それをどう思いますか?

確かに私は、お父さんの望むような子どもではなかったのでしょう。サッカーはどうしてもする気になれなかったし、玲の試合もほとんど見に行きませんでした。どうしてかというと、お父さんの期待を背負って活躍する玲は、私にはとてもまぶしくて、じまんの姉でしたが、お父さんの期待に応えられない自分と比べると、劣等感を抱かずにはいられなかったからです。

玲がうらやましくて、けれど同じようにはふるまえなくて、それじゃ、自分はどうなりたいかと考えると頭の中が真っ白になりました。

お父さんの望む子になれないのであれば、自分に存在価値などないと思っていました。

今、私が元気でいられるのは、ほんの少しでもサッカーに関わっていることで、お父さんの願いを、ほんの少しだけ、叶えてあげられているのではと思っているからかもしれません。

けれど、それだけではありません。この世界は、お父さんを中心に回っているのではなく、私の人生の中心には、ほかの誰でもなくわたしがいるのです。

これからは、お父さんの顔色を伺って、お父さんの夢を叶えようと思うことは、もうしません。これからの私は、自分がどうなりたいか、お父さんを抜きに、自分の力で考えることができると思います。今の私なら、きっとできます。

私は、いつか、お父さんと一緒にご飯を食べたり、映画を見たり、そんな普通のことをしたいです。お父さんは、私と、何かしたいことはありますか? 教えてください。そして、それをいつかそれをいっしょにしましょう。

来月、家に帰ります。家族で、ゆっくり話ができたらいいなと思っています。お父さんの都合のいい日を教えてください。

また、手紙を書きます。電話の方がいいでしょうか? でも、手紙の方が気楽なので、また手紙を書きます。お父さんも、できれば手紙をください。武蔵森学園の寮に宛ててくれれば、届きます。





より




20160201