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「こんにちは! ちょっとお話ししてもいいかな?」

食堂で昼食を取っている時、声をかけてきたのは快活な声の女性だった。ラフなシャツにジーンズ、肩から小さなカメラをぶら下げている。

彼女は私が返事をする前に、カレーライスが乗ったトレーを私の真正面の席に置いた。

「私、この合宿の取材をさせてもらってる、ルポライターです」

「あ、さっきの試合も……」

「もちろん見てたよ! 東京選抜! 大番狂わせだね!」

そういえば、ひとりやたら大きな声をあげて盛り上がっていた女性がいたな、と思い返す。笑顔が明るく、利発そうで、眩しいほどに快活な女性だった。私は少し気後れして、椅子に深く座り直した。

「あ、申し遅れました。私、ウィニングラン所属の、朝倉知香です」

女性は鞄から名刺を取り出し、テーブルの上を滑らせた。

「はぁ」

「あなた、東京選抜のマネージャーのさんよね?」

「はい、そうです」

「私ね、この合宿中は東京選抜を追いかけようと思ってるの。よければ、取材させてもらえないかしら?」

「取材、ですか?」

私は、離れた席でマルココーチや松下コーチと話をしている玲を見やる。どうやら話し込んでいるらしく、玲は私に目もくれない。

「あ、もちろん、監督さんに許可を得なくちゃならないなら、そうしてもらってからでかまわないよ!」

朝倉さんは、慌てて手を振りながらフォローしてくれた。私が何に困っているのか察してくれたらしい。

「すいません、そうさせてください」

「いいのよ、私も突然話しかけちゃって、ごめんね」

「いいえ」

「けど」

朝倉さんはスプーンでカレーをひとすくいすると、大きな口でそれを頬張った。

「いっしょにご飯を食べるくらいなら、許可はいらないよね?」

私は思わず、くすりと笑ってしまった。美味しそうにカレーを頬張る朝倉さんの笑顔はとても清々しくて、初めて会ったばかりだというのにあっという間に心を許してしまいそうだった。

さんは、どうして選抜のマネージャーなんてやってるの? あ、これは取材じゃなくて、ただの雑談ね?」

「はい。西園寺監督は私の姉で、そのつてで……」

この話をするのも何度目かな、と思いながら説明する。朝倉さんは、こちらが恥ずかしくなるほどまっすぐに目を見て話を聞いてくれていた。

「あぁ、そういうこと。あれ? でも名字が違うわね、……あ、ちょっと深入りしすぎたね、今のなし! 忘れて!」

「……はい」

「サッカーにはもともと興味があったの? それで監督に頼んだとか?」

「いえ、はじめはルールもろくにわからなかったくらいで……」

「そうなの。それじゃぁ、どうしてマネージャーになろうと思ったの?」

「えっと、それは……」

朝倉さんの口からは、次々と矢継ぎ早に言葉が飛び出してくる。そのスピードに頭が付いてこなくて、逡巡してしまう。

どうして私は都選抜のマネージャーになったのだっけ? 精神的に不安定になって、手首を切ってしまったせいで入院して、いつまでもうだうだと寝込んでいた私を、玲が外へ連れ出そうときっかけを作ってくれたのだ。けれどそれを、たった今会ったばかりの朝倉さんに話すの?

私が悩んでいる間に、朝倉さんはカレーをお皿の半分平らげ、グラスの水をごくりと干した。

「無理しなくていいよ。ごめんね、私こんな性格だからさ、せっかちっていうか、突っ走っちゃうっていうか、本当、ゆっくり答えてくれていいから!」

「……はい」

私は朝倉さんの言葉に甘えて、十分に考える時間を確保することにした。結果、その日の昼食は朝倉さんの話を聞くだけで終わってしまった。




20150713