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07 トーナメント第一回戦、東京選抜対関東選抜の試合が、今まさに繰り広げられている。須釜を中心にまとまる堅守のチーム関東選抜と、ひたすら前のめりに攻め続ける東京選抜との試合は、後半に入って東京選抜が大量得点を上げて異常な盛り上がりを見せている。いつの間にかギャラリーも増えて、この合宿を取材に来ている記者のひとりが大きな声で歓声を上げていた。 は、東京選抜のベンチの隅に立って試合のスコアを付けていた。 「あいつと何かあったの?」 ずばりと言ったのは、の隣に立った椎名だ。声こそ大きくはなかったけれど、そこには有無を言わせない力があって、はなんとか椎名の攻撃を受け流そうと言葉を濁した。 「別に、何もないよ」 けれど、椎名は容赦がない。目線では試合の展開をしっかり追っているけれど、その口からはを問い詰める言葉がぽんぽんと飛び出してくる。 「そんな見え透いた嘘つかれてもねぇ」 「嘘なんかついてない」 「お前らが知り合いだってのは知ってたけど。都大会も一緒に試合見てたしさ。ただの知り合いってだけじゃないってことは、俺から見ればすぐ分かるんだよ」 「翼が色眼鏡で見てるだけでしょ」 「人が心配して聞いてやってんのにその言い草はないんじゃない?」 「心配されるようなことは何にもないってば」 「だったらその態度はなんなわけ? いかにも構ってほしそうな空気醸し出されたって、具体的に話してもらわなくちゃこっちもアドバイスしようにないんだけど」 「そんな空気出してるつもりもないし、翼に聞いて欲しい話もないよ」 ピッチから、甲高い笛の音が響く。風祭がダメ押しの3点目を決めて、試合は決定的になった。風祭のゴールの記録をつけて、はそれきり口をつぐんだ。 椎名はの横顔を睨みつけて、腕組みをする。自分がしていることは、おせっかいなのかもしれない。佐藤もとい藤村成樹とに何があろうが、自分には関係ないことなのかもしれない。そうだとしても、翼は首を突っ込まないではいられなかった。 と椎名ははとこ同士で、子どもの頃からずっと知った仲だった。椎名の方がひとつ年上だから、少し背伸びをしてえらそうに兄貴ぶってみたりした思い出もある。この春から夏にかけて、にはいろんなことがあった。だから、心配するなという方が無理なのだ。 椎名は、コートの向こう、やけに目立つ金髪の男を睨みつけて奮然とため息をついた。 「なんか、睨まれとるで? 藤村」 吉田がにまにまと笑いながら言った。藤村は苦笑いをして答えた。 「ほんま、怖ぁてかなわんわ、あの姫さん」 「東京の知り合いなん?」 「まぁな」 「恨み買うようなことでもしたん?」 「してへんよ。俺がそんなことする男だと思うか?」 「せやなぁ、藤村は関西選抜1の真面目な男やからなぁ」 「いや、そこはつっこめや」 吉田はからりと楽しそうに笑った。藤村は吉田ののほほんとした空気を隣に感じながら、コートの反対側から自分を睨みつけている椎名の視線をいなす。 一体椎名が何に怒っているのか、藤村には分からなかった。椎名と藤村の接点は桜上水中と飛葉中と対戦経験がある以外にはの存在の他にない。かといって、椎名に睨まれなければならない理由に心当たりはなかった。と顔を合わせるのは夏以来のことで、それまで連絡一つとっていない。 はスコアブックを抱えて、藤村が知らない男と話をしている。東京選抜のメンバーたちだ。試合を終えたばかりで汗だくのままハイタッチをしていて、ハイテンションに大声で笑っている奴もいる。は長い黒髪をヘアバンドで留めた男に両手を高く差し出されたものの、スコアブックで手がふさがっていてどうにもできずに固まって、見かねた色素の薄い短髪の男が横からスコアブックを奪い取り、やっと両手を打ち合わせた。ハイタッチひとつするためにどれだけ時間をかけるのかとけらけらと笑う男たちの真ん中で、は控えめに、けれど心から楽しそうに笑っていた。 「何かおもろいもんでも見つけた?」 吉田が藤村の肘を小突く。 藤村は知らず知らずの内に緩んでいた口元を片手で押さえたけれど、それは簡単に元の形には戻らなかった。 「別に、なんでも」 20150601 |