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5時の夕食の後、7時から開かれた開会式には、全国から集まった各地域の選抜メンバーが一堂に会した。広いホールにこれだけの人数が集まると壮観だ。はホールの隅の目立たない場所に立って、着々と式が進行していくのを眺め、席に着いた選手達の顔を盗み見る。

東京選抜のメンバーの他にも、須釜や井上の知った顔をみると、少しだけ安心する。元々人見知りだから、知らない人だらけの場所に入っていくのはとても怖くて、苦手だ。こんなに知らない人だらけの場所できちんと仕事がこなせるか不安だったけれど、そんな時はみんなの顔を見て心を落ち着けることにしよう。

「緊張してる?」

と、ふいに声をかけてきたのは、壇上での挨拶を終えた榊だった。

「えぇ。ちょっとだけ」

が肩をすくめて苦笑いをすると、榊は安心させるように笑って言った。

「今回の合宿は試合形式だから、きっと楽しくなると思うよ。仕事も大事だけど、楽しむことも大切にね」

「はい」

壇上では、その選抜対抗試合のトーナメント表が発表されている。東京選抜の初戦は、関東選抜だ。チーム数の関係で、東京選抜は他ブロックのチームよりも試合数が多い。メンバーが集まっている席の方を見ると、藤代や鳴海が身を乗り出して嬉しそうに笑っていた。たくさん試合ができるからか、それとも、噂では強豪の関東選抜や九州選抜と同じブロックに入ったことがそんなに嬉しいのだろうか。真意のほどは分からないけれど、あんなにいきいきと目を輝かせているのだから、悪い気はしていないのだろう。

そんな彼らを見ていると自分まで嬉しいような気分になって、は口元をほころばせる。みんなが、これまでの練習の成果を出し切って、ひとつでも多く勝てたらいい。心からそう思う。

「そういえば、家に帰ることにしたんだって?」

「え?」

急に話題が変わって、はきょとんと目を丸くした。

「西園寺に聞いたんだよ」

そう言えば、バスの中で玲にそのことを宣言したばかりだった。榊には世話になっているから、本当なら自分の口から直接報告をすれば良かった。

「そう、なんです。そのつもりなんです」

「春休みに入ったら、すぐ?」

「この合宿が終わったら、週末にでもと思ってるんです」

「そう。勝が喜んだだろう?」

勝、とは、と玲の父親の名だ。の父親と榊は、サッカーを通じて仲がいい。が榊に世話になっているのも、そのよしみがあるからだった。

「あ、実家にはまだ連絡してなくて……」

「そうなんだ。いつするの?」

「それは、えっと……」

そのことは、何度も考えた。家に帰ろうと決めてはみたものの、まだ何となく勇気が出なくて母にも父にも連絡はしていない。玲に宣言するのだって、相当の勇気を振り絞ったのだ。だから、この合宿中に少しでも勇気の芽を育てて、なんとか連絡を取れるように頑張らなくちゃと思っていた。

「良かったら、僕から勝に電話してあげようか?」

自信なさげに俯いていたに、榊は優しく言った。

榊は、に対していつも甘い。だからつい、甘えたくなってしまう。けれど、これは自身の問題だ。肝心なことは、自分の力で成し遂げなくてはいけない。

「いえ、電話は、自分でします。大丈夫です」

「そう? 何かあったら、いつでも相談に乗るからね」

「はい」

は笑って、答えた。



20141229