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01 季節は一年で一番寒い時期を迎えている。 北風が耳の先をきんと冷やして、頭が痛いような気分になる。あの韓国の雪と比べればなんてことないそよ風のようなものだろうけれど、はぎゅっと首を縮めてマフラーに顔をうずめた。 夕暮れが近い放課後だ。紫色の空に薄く雲がたなびいていて、一番星が冬空に鋭く光っている。帰宅する生徒達でごった返す正門までの並木道を歩いていると、 「よぉ」 と、ぽんと肩を叩くような気軽な声が降ってきた。が振り向く間もなく、隣に並んだのは三上だった。 「あ、どうも。」 なぜか懐かしいような気持ちで、は応えた。三上の顔を見るのは久しぶりだった。最後に会ったのは、夏の終わり頃だっただろうか。 サッカー推薦で武蔵森高等部へのエスカレーター進学が決まったとかいないとか、風の噂で聞いていたので、はごく自然に言った。 「進学決まったそうで、おめでとうございます」 三上は思わぬことを言われて面食らった。 「なんだ。知ってたのか」 「噂で。良かったですね」 「まぁ予定通りっつーかな。そんな大したことでもねぇよ」 「へぇ、さすがですね」 「よく知りもしねーくせに」 三上はくくっと、人が悪そうに笑った。その言葉尻が嫌味に聞こえて、はどきりとする。は、三上のこういうところが苦手で嫌いだった。いじわるで、横柄で、夏に出会ったばかりの頃は三上の顔を見るのも嫌だった。よくここまで慣れたものだと、自分で自分に感心してしまう。きっと、藤代や渋沢がいてくれたおかげだろう。 「最近は調子良さそうだな」 「? 何のですか?」 「顔色。夏は死にそうに青い顔してただろ」 「そうですか?」 は片手を頬にあてて首を傾げる。自分の顔色は鏡を見ないと分からない。三上にどう思われていたか分からないが、確かにあの頃は入院中の一時帰宅中の身で、万全の体調ではなかった。夏の合宿を思い出すと、まるで何年も昔のことのような気がする。今だからわかることだけれど、あの頃から三上はの体調を不器用ながらに気遣ってくれていたから、きっと三上の言うとおりなのだろう。 三上は、ひとり考え込むの横顔をじっと見下ろす。マフラーと手袋にもこもこと包まれて、ただでさえ小さな体が一回りも小さく見える。貧弱で頼りない。保護者がいない小さな子どもみたいだと、三上は思う。 「三上先輩」 「ん?」 「いつも心配かけて、すみません」 「はぁ? なんだよ急に?」 三上は口を真横に曲げた。はいたって真面目な顔つきで、三上が驚いたこと自体に、驚いているようだった。 「そんなに驚かなくても……」 「誰がいつお前の心配なんてしたよ?」 「え? 今までいろいろと……。きっと、藤代くんから話を聞いているんですよね?」 三上は図星をつかれて面食らった。東京都選抜のメンバー選出にもれた三上は、藤代や渋沢づてに聞いたこと以外に、について何も知らない。二人があんまり楽しそうに、そして自慢げにの話をするから、つい気にしてしまっていた。学園内で姿を見つけると注意が向いたし、顔色が悪かったら声をかけて保健室に連れて行ってやろうと思った。 「今までいろいろ親切にしていただいてたのに、私、一度もお礼を言ったことなかったなと思って……」 「いや、別にそんなのいいけどよ……」 「よかったら、今度何か、お礼させてください」 は真っ直ぐに三上を見上げて、小さく首を傾げた。 思わぬことに、三上は言葉を失う。この寒い日に、頬が火照って暑い。何か言わなければと頭をフル回転させて、なんとか出た言葉はなんとも情けないものだった。 「そ、そういうことは、藤代に言ってやれよっ」 「あぁ、それもそうですね。じゃ、渋沢先輩と、間宮くんも一緒に」 「なんでそこでマムシが出てくるんだよ!?」 「え? だって、選抜でお世話になってるし……。ダメでしたか?」 「いや、お前がいいならいいけどな……っ」 三上は複雑な顔で、盛大なため息をついた。 小さな子供がいらぬ気を遣ってくる。小さな姪っ子を持つ叔父、のようなポジションに落ち着いたような気がして、三上は複雑な気分だった。 20140714 |