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11 合宿三日目も良く晴れていた。 玲とが宿泊している部屋にはベランダがついていて、そこからはちょうどグラウンドが一望できるようになっている。より先に準備を済ませていた玲はそこで朝の風に当たっていた。も身なりを整えて外に出る。 「体の調子は? どう?」 玲は柵に両手をかけて振り向いた。は柵に背を預けてもたれかかる。かちゃんと小さな音が鳴った。 「大丈夫。平気」 「今日で最後だから、頑張って」 「うん」 風が二人の髪を揺らして通り過ぎていく。玲は前髪が持ち上がって額があらわになり、は後ろ髪が頬を隠すように流れた。まだ太陽の位置は低いけれど少し動いただけで汗ばむような陽気だった。 「昨日、何かあった?」 ふいに問われて、は玲に視線をやった。玲は妙な顔をしている。例えるなら、遠い昔になくしてしまったものを忘れかけた頃に見つけ出した時ような、驚きと喜びと戸惑いが複雑に入り交じったような表情。には意味が分からない。 「何って?」 「ううん。なにもないんならいいんだけど」 「なにそれ? 気になる」 「いいのよ」 玲ははぐらかすように笑顔を作って、先に部屋の中に戻っていった。 ピッチの周りは、先の二日間よりも特別な雰囲気に満ちていた。その正体は紅白戦に向かう緊張と興奮だ。それぞれの色は様々だけれど、うきうきと一際楽しげに準備体操をしているのは藤代だ。 「そーいや鳴海、ちゃんにちゃんと謝ったのか?」 その隣で大きな体を捻っていた鳴海はぎくりとして動きを止めた。藤代は不思議そうにその顔をのぞき込む。鳴海にしては珍しく、何か思い悩むような表情をしていた。 「いやぁー。それがさ……」 「なんだよ? 何かあったの?」 「そもそもお前が余計な事言うのが悪ぃんだよ!」 鳴海は昨夜の椎名の話を、藤代から又聞きすることで耳にしていた。出会った直後にナンパめいたことをしたことは確かに不謹慎ではあったし、にいらない不安を抱かせたりもしただろう。だから一回ちゃんと謝れ、と、似合わない真剣な顔で藤代に説かれたのだ。 確かに納得できる話ではあったから、気乗りはしないが言うことを聞いておくことにした。わざわざ部屋まで出向くのはさすがにはばかられたから、うまいこと廊下で会えやしないかとふらふら散歩をしていたら公衆電話の前で偶然天城を見かけて、気晴らしに絡んでいたら絶妙のタイミングで顔を合わせる羽目になってしまった。恥ずかしい場面を見られたことで気が動転してしまい、らしくもなくチョコレートなんか取り出してみたりしてしまった、だなんて。キャラクターに合わないにもほどがある。 思い出すだけで背中がかゆくなるような居心地悪さがあって、鳴海は正直、今日と顔を合わせるのも嫌に思えるくらい後悔していた。 藤代は頭の上に大きな疑問符を浮かべて眉をハの字に曲げている。 「何がだよ? 訳分かんねぇ奴だな」 「うるせーっ」 話し出すと長くなるし自身の沽券にも関わるから、絶対に誰にも話すものかと鳴海は硬く心に誓った。 「アキラ」 尾花沢監督の隣で話をしていた玲に、GKコーチのマルコが耳打ちをする。玲が視線をやると、マルコは含み笑いをしてにやりと口端を持ち上げる。 「榊ガ来テル」 玲は小さな仕草でピッチの向こうを振り返ると、眼鏡を掛けた中年の男性がジャケットを脇に抱えて整備員と談笑していた。 「そう」 二人は一瞬だけ視線を交わし、心底楽しそうにしたり顔で笑った。 ピッチにホイッスルの音が高く響き渡る。 紅白戦が始まった。 20070528 |