不機嫌なポニーテール 2




「及川が自慢してたぞ。からお守りもらったって」

岩泉からそう報告を受けて、はげんなりした。

昼時を過ぎて、人影まばらになった購買部の自動販売機の前でのことだった。岩泉は紙パックの飲むヨーグルトを飲んでいて、は野菜ジュースを飲んでいる。バレー部員のふたりは例にもれず背が高くて目立つので、他の生徒が遠巻きにふたりを見ていた。

「本当に?」

「おう。見せてもらったけど、あれ手作りだろ? わざわざ作ったの?」

「違うよ。元々余り物だったのをあげたの」

「あまりもの? お守りって余るもんなの?」

「女子部のみんなにお守り作るのに、最初に試作品を作ったの。それ。だからイニシャル入ってないの」

「あぁ、そういうことか」

と岩泉は中学からの同級生で、今もクラスメートだ。同じバレー部だったこともあって、中学の頃から相も変わらず仲良くやっている。徹と3人でばかをやるのが楽しかったこともあるけれど、今は少し大人になったのでそういうことはあまりなくなった。昔から変わらないのは徹だ。お調子者で、いつも岩泉やを呆れさせる。今回のこともまたしかりだ。

音を立てて紙パックを潰して、岩泉が言った。

「本人が満足してんならいいんじゃね? すっげぇ嬉しそうに触れ回ってたぜ?」

「そこまでは予想してなかったなぁ……」

は眉根を寄せて、低い声で言った。岩泉はそれに同情するように乾いた笑いを浮かべる。

「そんな気にすんなよ」

「けど、徹をそんなに喜ばせてしまったと思うと、面白くないよね」

「今にはじまった事じゃないだろ、あいつのそういう大袈裟なところって」

「そうだけどさぁ。何ていうか……」

岩泉から遅れて野菜ジュースを飲み干したは、力任せに紙パックを握りつぶして、八つ当たりするようにゴミ箱に投げ捨てた。

ってさ、及川と何かあったの?」

「え? 何で?」

岩泉はポケットに両手を突っ込んで少し首を斜めに傾けた格好で、不思議そうにを見下ろしていた。岩泉は及川より少し背が低いけれど、ウィングスパイカーを務めるだけあって肩幅が広く、及川よりたくましく見える。中学生の頃と比べると、その目を見上げる角度がぐっと大きくなっている。

「いや、俺の勝手な推測だけどさ。なんつーか、昔より当たりきつくなったような気がしたから」

「そう? 昔からこんなもんじゃない?」

がそう思ってんならいいけど。及川がうっぜぇのは分かるし。ただ」

「ただ?」

「まぁ、俺が言うことでもないかもしれないけど……」

2人のそばを仲の良さそうな女子生徒が連れ立って通り過ぎた。それを目だけで見送ってから、岩泉は言いにくそうに言った。

「あんま、及川に冷たくすんなよな。あいつ落ち込むと面倒だから」

「徹が落ち込むなんてことあるの?」

「たまにな。俺、よく愚痴られんだよ」

は気まずくなって、下唇を噛む。徹が落ち込んでいるといったって、そもそも徹が自分をからかうから悪いのだ、と思う。冷たくなったのだって、元はといえば徹のせいだ。そのせいで岩泉に火の粉が降りかかっているなら悪いなと思うけれど、元をたどれば、悪いのは徹のはずだ。けれど罪悪感を全く感じていないわけでも、ない。

「私、そんなに冷たくなったかな?」

「っつーか、及川ピンポイントでなんじゃね? 他は俺知らねぇし」

「……何かあったかと聞かれると、あるといえばあったんだけどね」

「何?」

こんなことを相談できる相手は、岩泉以外にいない。そう考えて、は腹をくくることにした。

「徹って、私のこと好きなのかな?」

「はぁ?」

岩泉はあんぐりと口を開けて大声を出した。

「告られたのか? いつ?」

「告られたっていうか、それに近しいことをしょっちゅう言われるんだよね」

「しょっちゅう!?」

「でも、いっつもふざけた態度で言うから、本気なのか、からかってるのか分かんないんだよ。あのへらへらした笑い顔もいらっとするし……」

「まぁ、確かにあいつと一緒にいるといらっとするときあるけど……」

「いらっとしたら、ちょっと冷たくもなるでしょう? 私だけが悪いわけじゃないと思うんだけど」

「まぁ、それはそうかもな」

「で、どうなんだろう? 徹はふざけてるの? それとも本気なの? どう思う?」

「なんでそれを俺に聞くんだよ?」

「長い付き合いだから。徹のこともよく分かってるじゃん」

「そんなこと言われたってなぁ……」

岩泉は渋い顔をして考え込みながら、慎重に言葉を選んだ。

は、昔はもっと男っぽくてさばさばしていたのに、高校に入ってからはめっきり女の子らしくなった。岩泉から見ても、とても可愛くなった。けれどもそれは見てくれだけのことなので、話をすると中学の時から全く変わっていないところに安心もする。

そういうに、及川徹が惚れていることも、実はよく分かっている。何せ、中学生の頃からずっと一番近くで見ているのだ。けれど、それを第三者の口から告げたらルール違反だろうと思ったので、岩泉は何も言わないことにした。

「……俺にはなんとも」

「そっか」

は長い溜息をついてがっくりとうな垂れた。ポニーテールの先が顔の横にだらりと下がる。その姿は悩み抜いて疲れきっていて、岩泉は同情を禁じえず、ぽんと、労わるようにその肩を叩いてやった。

「……まぁ、愚痴ぐらいは聞いてやるよ」

「徹、私に『俺のこと好きなら好きって言えばいいじゃん』とか言うんだよね」

「どこまで自信に満ち溢れてんだかな」

「徹はさ、女の子にちやほやされるの好きでしょ? そういうところでアイデンティティ保ってるところあるじゃない」

「あぁ、ムカつくよなあれ」

「実際選び放題なんだから、私にそういうこと言うのが、本当に意味が分からないんだよ」

「うん」

「本当に、私のことからかってるとしか思えない」

そう言って、は少し残念そうに、視線を落とした。

蚊帳の外にいる岩泉は思う。

及川は有象無象の女の子達にちやほやされることにはスマートに対応しているくせに、のこととなると一転して遠回しなアプローチしかできない。をからかいたくてわざとそうしているのかどうかまでは分からないが、他の女の子ととでは扱い方が全く違う。

それだけでもに教えてやってもいいのかもしれない。けれどあの及川のためにそこまでしてやる必要があるか? という疑問が浮かんで来て、岩泉は迷わず「NO」と答えを出した。

「そんなに落ち込むなよ。インハイ予選も近いんだから、あんま暗い顔してっとチームに影響すんぞ? マネージャーならなおさらさ」

「……そうだね、気をつけるよ」

予鈴が鳴って、生徒たちが教室へ急ぐ。は無理矢理顔を上げて、ポニーテールを片手で払って、岩泉と二人、並んで教室に向かった。

「話、聞いてくれてありがとう。岩ちゃん」

「おう」





20141020




岩ちゃんはぜったいいい男。でもきっとモテない。