11 : ending





汽笛が空高く響いた。
雲ひとつない青空の下、ロイは今イーストシティのメインステーションにいる。

先日正式にセントラルへの移動が決まって、今日は部下と共にイーストシティを離れる日だった。
それぞれの面々は、家族や友人へと別れを告げるために車内に荷物を積んでホームに立っている。

ロイはと向かい合っていた。
はきちんと事務用の軍服を着ていて、あの夜の涙が嘘みたいに笑っていた。

「セントラルでも頑張ってくださいね。あ、あと早く大総統になっちゃってください」

「ずいぶんと簡単に言ってくれるな」

「だってチャンスじゃないですか。一番にお祝いしに行きますよ、私」

「あぁ。それじゃ、私も一番に連絡するよ」

「約束ですよ。忘れたら承知しませんから」

そう言ってひとしきり笑って、ロイは家族と話をしているハボックに目をやる。
恋人同士として、挨拶はしないのかと思った。
それとも自分と話を終えた後、最後の挨拶をハボックと交わすつもりなのか。

「あの、大佐?」

「……あぁ、すまない。なんだ?」

に顔をのぞき込まれて、ふと我に返る。
ここでハボックのことを気にしても仕方がない。
今ここでしかもう話をすることはできないのだから、残り少ない時間は大切にしたい。

「ハボックさんのこと気にしてます?」

しまった。気づかれていたか。

「い、いや。そんなことはないが……」

不覚にも言葉が詰まってしまって、はそれをきちんと見抜いて小さく笑った。
軽く咳払いをしてごまかし、まるで言い訳のような言葉をつらつらと述べる。
それが正直な気持ちだったし、今のには嘘は通用しない。

「ハボックに挨拶に行かなくてもいいのか? もうしばらく会えなくなるんだから、ちゃんと……」

「大佐。私ハボックさんと別れたんです」

「……はぁ?」

思いもかけない言葉にロイは脱力した。
は存外平然としていて、かえってロイがここまで驚いていることに驚いているようだった。

「そんなに意外ですか?」

「いや、意外というか……。なぜだ?」

聞かずにはいられなくて、恥をしのんで問う。
は少し頬を染めて、どこか寂しそうに笑った。

「ハボックさんがセントラルに行くんなら、ここにいる私は邪魔になりますから」

「ハボックがそう言ったのか?」

「いえ、私の意志です。ハボックさんのことは好きですけど、重荷になりたくありませんから」

「……そうか」

「大佐」

ふと、は笑顔を消してすっと姿勢を正した。
空気が緊張して、ロイもしっかりとに向き合う。
これが最後の言葉になるのなら、それをしっかり覚えていたいと思った。

「今まで、長い間お世話になりました」

深く頭を下げたに、ロイは何も言わない。

「本当に大佐には感謝しています。大佐がいなければ、は生きていません。
私を生かしてくれて、名前を与えてくださって、お礼のしようもありません」

「おい。買いかぶりすぎだ」

「いいえ! そんなことありません!」

は顔を上げて、真っ直ぐにロイを見た。
そのまなざし。
あの、””が生まれた病院ではじめてであった少女。
その時と同じ瞳だと、ロイは思う。
恐れるような、気丈に振る舞っているような、今にも泣き出してしまいそうな、儚くて強い瞳。

「……

「はい」

「変わらないな、君は」

「……え?」

「私は変わった。これからもきっと変わる」

「大佐?」

「君は、」

の言葉を遮ってロイは続ける。
もしかしたら泣きそうなのは自分の方なのかも知れない。

「……変わらずにいてくれ」

その時、汽笛が空高く鳴いて、ロイはの頬にキスを落として汽車に駆け込んだ。

閉じた扉の向こう、走り出した汽車を追っては少し足を踏み出したけれど
すぐに立ち止まって、そこでやっと涙をこぼした。

それがロイが見た最後のの姿で、スピードを上げる汽車に、の姿はすぐに消えた。



20050620