00 : opening





その日は、雨が降っていた。

霧のように細かい、空気が煙るような雨だった。


肌にまとわりつく空気が重い。

服や髪が湿気を吸って重い。

疲労のために体が重い。


世界中の重力が増したみたいだ。

そうじゃなきゃこの雨がよっぽど重いんだ。

それとも引力の具現化かな。

雨は、私をここに縛るための鎖みたいなものになったんだ。


動けない。

体に当たる雨一粒一粒に背中を押されてる。


早く倒れてしまいなさい。

膝をついてしまいなさい。


いやだ。

私は絶対に。



「……君は……?」



ふと、人の声が聞こえて振り向いた。

どうしてすんなり体が動いたのかはわからない。

今の今まで、立っているだけで精一杯だったのに。



「誰」



鋭く言い放つ。

そうしたつもりだったけれど、相手がそう感じたかはわからない。

実際、その人は口端をつり上げて笑っていた。



「それは、また次に会ったときにでも」



次なんて、あるのかな。

どうしてそんな約束めいたことを言うんだろう。

不思議な人。





その日は、雨が降っていた。

霧のように細かい、空気が煙るような雨だった。



20050309