あの爆発の中、が無事に救出されたのはほとんど奇跡としか言いようがない。

 話によれば、時限爆弾は離れのほぼ中央に設置されていて、はテーブルや布団、離れにあるもので自力で運べるものならなんでも爆弾の上に積み上げたのだそうだ。それで爆発の勢いがほんの少し緩和され、中にいたも最小限の衝撃しか受けずに済み、土方が蹴破った窓のすぐそばにたまたまが立っていたのも不幸中の幸いだった。あと数秒遅かったら、も土方も崩れ落ちる外壁の下敷きになっていただろう。

 土方に助け出されたはその場で気を失ってしまい、すぐに病院に運ばれた。爆発の熱風から頭をかばった時に両腕を火傷していて、それは全治二週間、長期間にわたり監禁されていたため、念のため検査を受けることになった。

 近藤と沖田と山崎は、大きな花束を抱えてを見舞った。隊士達はだれもかれもの様子を見に行きたがったが、大勢で押しかけてはかえってを疲れさせるだけだと近藤が言い含めた。

 包帯を巻いた両腕で花束を抱えたは、いつもと変わらぬ笑顔で言った。

「こんなに大きな花束をもらうのは生れてはじめてです」

 ところで、男というものは肝心なところで気遣いに欠けるところがあるものだが、入院生活に必要なあれこれをのためにそろえる、という発想が近藤達にはなかった。

 続いて見舞いにやってきた月詠とさっちゃんは、が遠慮がちにその旨伝えるなり、血相を変えて病院の売店と近所のスーパーに走ってくれた。さすがのも、化粧水やら下着やら生理用品やらを真選組隊士にお使いに頼むのには気が引けていたのでただただありがたかった。

「前から思っていたがな、やっぱり真選組の家政婦なんぞ辞めて別の職を探した方がいいのではないか? こんな危険な目に遭ってまで奴らに尽くす義理もないだろうに」

 月詠が心配そうに忠告する。

「確かに。そのせいでこんな怪我して入院させられて、あげくの果てにこの扱いじゃね。普段の生活だって相当酷いものなんじゃないの?」

 さっちゃんは見舞いに持ってきたくだものの盛り合わせの中からバナナを勝手に食べている。月詠は白い眼をしてさっちゃんを睨んだが、はさっちゃんに借りがあったのでただ黙って耳を傾けた。

さんはもっと、自分の身の安全について考えるべきだわ。特殊な経歴もお持ちのようだしね」
「心配してくれてありがとう。それについては、少し考えが足りなかったなとは思ってるのよ。心配かけてごめんなさい」
殿。こいつの話はあまり真に受けなくてもいい。結局は銀時のそばからお前を引き離すのが目的なんじゃ。自分のことしか考えてはおらん馬鹿の戯言じゃ」
「ちょっと何言い出すのよツッキー! ちゃっかり私の株落とさないで!」

 賑やかな見舞いが続いた。

 屯所に勤める女中達が甘い和菓子を差し入れてくれ、お妙からは元はおそらく何かの食材だったと思われる黒焦げのものが届き、警察庁長官松平からは高級なメロンが届いた。本当に心配をかけてしまったのだと、はただただありがたく恐縮するばかりだった。

 あの宿の少女がやってきたのは、見舞客が途切れた昼間のことだった。まさか自分から会いに来るとはも思っていなかった。もしもふたりでいるところを誰かに見られたら説明に困ってしまうというのに。

「ここへきて大丈夫なの?」

 少女は小さく頷いて、綺麗な花模様の布巾に包んだ菓子の包みを差し出した。それは、吉田がのために買ってきた金平糖の包みだった。吉田が持ってきたものに手を付ける気が起きなったは、それをすっかり忘れていた。

「あなたが持っていてくれたのね」
「これは、吉田さんからさんへのお詫びの品です。受け取ってください」
「分かった。届けてくれてありがとう」

 はそれを受け取って、はっとした。金平糖を包む赤い花模様の布巾は糸の目がそろっておらず不格好で、それでいてあどけない愛らしさのにじむ手作りのものだった。

「これ、あなたが縫ったの?」

 少女は照れくさそうに笑った。

「ひとりで練習しました。まだ上手にできないけれど……」
「そんなことないわ。とても素敵」

 ふたりはそれから、吉田のことも、徒勇隊のことも、あの事件のことも、お互いに別れてからどんなことがあったのかも、何も話さなかった。そんなものはもう必要なかった。縫い物の話をして、料理の話をして、ふたりで一緒に金平糖を食べた。金平糖は口に入れた瞬間にほろりと溶けて、かすかな甘みを残して消えてしまう。たぶんふたりの関係も、そんな風に消えていくのだろう。

 その方がいいのだと、ふたりとも思っていた。









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