吉田と仲間達はまだ陽のあるうちから身支度を整えた。一見、どこにでもいる町人に見えるような出で立ちをしているが、懐、袖の下、袴の下の足首に小さな爆弾を隠し持っている。すでに街中に仕掛けた爆弾の起爆スイッチ、誰がどの経路を辿って江戸城に向かうかを書いた紙は、小さく千切って酒に混ぜて飲み干す。帯刀すればそれだけ危険度は上がるが、いざという時のために脇差と太刀はすでによく磨かれている。
吉田達は自分達を奮い立たせるように大きな声をあげて乾杯し、勢いよく酒を煽った。少女が神妙な面持ちで酒を注いで回っているのを、
は襖の向こうから覗き見ていた。
「幕府の連中に目にもの見せてくれる!」
「おぉ! 我らの力を世に知らしめるのだ!」
なぜか、空いた徳利を持って居間から寝間に引き上げてきた少女は、泣きそうな顔をして
の腕の中に崩れ落ちた。こんな幼い少女にも、吉田達が何を考えているのか分からないわけはないのだ。
「大丈夫?」
がその背をさすってやると、少女は息も絶え絶えに答えた。
「ごめんなさい、もう、見ているのも辛くて……」
「そうよね。分かるわ」
は少女に顔を上げさせると、その涙に濡れた頬を優しく両手で包み込む。幼い少女の肌が悲しい涙で濡れているのが哀れで仕方がなかった。
「でも、あなた言ったわよね。吉田さんのためならどんなことでもしてあげたいって。だったら最後までしゃんとしていなくては駄目。泣いたりするなんてもってのほかよ」
「……でも」
「でもじゃないの。泣いて悲しむことなんか、全部終わったら好きなだけできるわ。今はその涙を拭いて、しょうもないこと企んでるあの人たちににっこり笑ってお酌してきなさい。それが今、あなたに与えられた役目なんだから」
「……
さんってば、人質のくせにどっちの味方なの?」
は答えないかわりに、意味深に笑って少女の唇をきゅっと摘んだ。少女はくすぐったく笑うと、気丈に涙を拭って居間に戻っていった。
男達が大きな声をあげて必死に自分達を奮い立たせている。酒の力を借りて、こんな風に自分達を叱咤激励しなければこの離れからひとりで出ていくことすらできない、無力な男達。離れに閉じ込められてから何の情報も得られていない
でさえ、徒勇隊にはもはや勝機ないのだと手に取るように分かった。
酒で気の大きくなった男達があげる大声に、
は戦々恐々としていた。高杉や桂に取引を断られてしまった今、
に人質としての価値はない。今すぐ斬って捨てられてもおかしくはないのだが、吉田は寝間に
を閉じ込めて、仲間達にはその姿も存在もすっかり隠してしまった。今まさに作戦を実行しようという時になっても、
の名前も呼ばない。
自分はこれからどうなるのだろう。希望を捨てたわけではないし、逃げるチャンスがあるならそれを逃すつもりもない。けれど、残していかなければならない少女のことが気掛かりだし、吉田が何を考えているのか分からない。
は震える手を握りしめ、じっと唇を噛み締めた。
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