神楽が万事屋に戻ると、銀時と新八、それから桂とエリザベスが顔をそろえていた。テーブルにはお茶と豆大福、煎餅、団子がごろごろと乗っていて、新八がちょうど急須からお茶を注いでいるところだった。

「あ、神楽ちゃん。お帰り」
「ただいまヨー。銀ちゃん、いつ帰ってきたアルか?」
「ついさっきだよ」
「おぉ、リーダー。久しぶりだな」
「今から桂さんの話を聞くところなんだ。神楽ちゃんも座って」

 この非常事態にこいつらは何を呑気に茶ぁしばいてるのかと、神楽は思わず番傘を振り上げそうになったが、もう既に、先に帰しておいた定春がエリザベスに馬乗りになってストレートパンチを決めていたので、傘は大人しく傘立てに収めることにする。

 神楽が席につくと、桂はひとつ咳払いをして話し出した。

「吉田利麿率いる徒勇隊の動向だが、勢力は急激に弱まっていると考えていいと思う」
「どういうことだ?」
「岩城屋というパトロンを失ったことが相当な痛手のようだな。隊から離反して逃げ出す浪士があまりに多い」
「その作戦って……」
「江戸城下、いたるところで一斉に爆発を起こし、その混乱に乗じて将軍を暗殺するというものだ。俺達もの身柄と引き換えに協力を要請された。だが、徒勇隊はもはや組織の体をなしていない。作戦は失敗する、いや、実行に移すことも難しいかもしれん」
「それなら願ったり叶ったりじゃねぇか」
「だが、既に集めてある火薬をどうするのかが問題だ。尋常ではない量らしい。残った仲間だけで処理しきれないそうだ。徒勇隊を離反してきた志士から聞いた話だが、確かな情報だ」
「ぎりぎりの瀬戸際だな」

 銀時が大福を頬張りながら呟き、桂は湯呑を傾け静かに頷く。

「こうなっては、吉田がどう動くか分からんな」

 神楽は月詠から預かったメモをポケットから取り出した。

「これ、ツッキーが教えてくれたネ」

 それを見るなり、桂はお茶に咽せ、銀時は大福を喉に詰まらせた。
 メモに書かれていたのは、とある遊郭の顧客名簿の写しだった。こんなものが外に流出しては吉原という町そのものの信用にも関わるが、日輪の目を盗んで月詠が持ち出してきてくれたのだ。

 メモに書かれた名前を、新八が恐る恐る読み上げる。

「高杉晋助と、吉田利麿が吉原に……」

 桂と銀時は険しい顔でメモを睨んだ。

「あいつ、高杉とも取引しようとしてんのか……!?」
「まぁ、落ち着け。銀時」

 桂は腕組みをして静かに目を伏せる。

「実は今日、吉田に会う予定だったのだ。作戦への協力如何の回答をすることになっていたのだが、吉田は約束の場所には来なかった」
「そうなのか?」

 銀時が口元についた大福の粉を拭いながら言う。桂があの廃寺に向かっていたとき、銀時は真選組の屯所にいた。

「あぁ。こういう約束を違えるような男ではないのだが、何かあったのか……」
「高杉と会ったことと関係あると思うか?」
「そう考えるのか妥当だろうな」
さんの命と引き換えに、鬼兵隊に協力を求めてるってことですよね?」
「高杉がそれに乗るかね?」

 銀時は心底疑わしい顔をする。桂も眉間に皺を寄せた。

「……誰かの言いなりに動くような男ではないからな」
「だよな」
「しかしことはの命に関わることだ。鬼の目にもなんとやらと言うし……」
「いや、けど相手はあの高杉だぞ? そもそも高杉ってと仲良かったっけ? あんま話とかしてた印象ねぇよな?」
「そんなことはない。松下村塾にいた頃はよく一緒に過ごしていたではないか」
「え、そうなの? 俺それ全然知らねぇんだけどまじで?」
「お前はいつもふらふらしてたからな」
「なんだよ、俺のいねぇところであいつらそんな感じだったの? なんかちょっとショックだわー」
「そもそも今回の件、高杉と銀時との三角関係が原因なのだからな。お前はもう少し反省しろ」
「え、そうなんですか!?」

 新八が顔を赤らめて飛び上がり、神楽は汚いものを見るような顔をして銀時を睨む。何か良からぬことを想像されていることを感じ取って、銀時はふたりの頭を平手で叩いた。

「そんな覚えはねぇよ」
「まぁどちらにせよ、高杉が義理を感じてを助けるために一役買ってくれる可能性もなきにしもあらず……、と思いたいところだな」

 桂は口ではそう言いながら、まったく自信が持てていないようだ。
 銀時は投げ遣りに言う。

「もしそうなったとしても、は俺達との関わりを隠しておきてぇんだから、あんな過激派に出てこられたらたまったもんじゃねぇよ」
「でも、どっちにしろこのままじゃさんが危険です。居場所は分かってるんですよね? それならどんな理由があろうと助けに行かないと!」

 新八はちゃぶ台を叩いて怒鳴るが、桂も銀時も渋い顔をしていやいやと首を横に振る。

「いやしかし、俺達が助けに行ったら、が真選組での立場を無くしてしまう」
「そうだよ。俺もそれが理由で追い返されたんだってさっき話しただろ。地味に傷ついてんだから掘り返すなよな」
「……あんた達、本当にさんを助ける気あるんですか?」

 新八は引きつった顔でふたりを睨んだが、ふたりは意思を変える気はなさそうだ。
 その時、言葉を失った新八の隣で、いつの間にかちゃぶ台の上の菓子をひとりで全部食べてしまい妊婦のように腹を膨らませた神楽が大きなゲップをした。

「それ、銀ちゃんたちが悩むようなことアルか?」
「神楽ちゃん? 急にどうしたの?」
「銀ちゃん達のことがバレて、真選組を追い出されるか、それとも許されるか。それはの問題ネ。外野がどうこう言うことじゃないアル」

 意表を突かれて、男達は鼻白む。
 神楽は膨れた腹をさすりながら、歯の間に挟まった豆大福の豆のかけらを爪楊枝でしーしー掘った。

「銀ちゃん達は、のせいで自分が豚箱入りになるのが嫌なだけなんじゃないアルか?」

 銀時と桂は言葉を失い、新八は畏敬の念を込めて神楽を見上げる。
 それは新八も思っていたことだが、神楽ほどきっぱり口にできるほどの度胸はなかったのだった。









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