「今までどこに行ってたんですか!? 沖田隊長!!」

 屯所に戻ってくるなり、顔色の悪い山崎に怒鳴られた沖田は申し訳なさそうな顔ひとつせずに山崎を睨んだ。

「てめぇこそ、何だよその顔? ゾンビのコスプレか? ハロウィンはとっくに過ぎてんだよ。この非常事態に浮かれてんじゃねぇぞ」

 確かに、目の下に浮いた濃いくまがゾンビっぽく見えないこともない。

「こういう顔なんですよ! ほっといてください!」
「まぁまぁ落ち着けよ、ふたりとも」

 苦笑いをしながら山崎の肩を叩く近藤も、疲れの滲んだ顔をしている。

 沖田は女中が用意したらしい握り飯をほうじ茶と一緒に口に頬張った。近頃は昼夜も問わず働きづめの隊士たちがほとんどで、かつが不在ということもあり、屯所の食堂はほとんど機能していない。それではあんまりだと女中達が気を利かせて、朝昼夕に握り飯とみそ汁の一汁一菜だけが用意されるようになっていて、残った握り飯も誰かのおやつや夜食になっていた。

 沖田は口いっぱいに握り飯を頬張ったまま、山崎が抱えていた資料の一番上の書類を取って目を走らせた。

「で、何か分かったのか?」

 山崎は資料をテーブルにたたきつけると、やけくそのように握り飯を掴む。腹を空かせているのはみんな同じらしく、近藤も握り飯を掴みほうじ茶をすする。

「俺もそれを聞くところだ。で、何なんだ? 折り入って話したいことって?」

 山崎は少し迷うように沖田の顔を見たが、意を決したように深呼吸をして話し出した。

「これは、報告しようかどうか迷ったのですが、岩城屋から押収した資料の中から、こんな書簡が見つかったんです」

 山崎がふところのポケットから取り出したのは、まだ新しくしわの少ない和紙だった。今時メールという便利な通信手段があるにもかかわらず、昔ながらの古風な書簡。それを受け取った近藤の手元を沖田も覗き込む。

「おそらく、攘夷浪士から岩城屋へ向けた、ある作戦への協力依頼です。隠語が使われていますが、ある人質を元手に、桂小太郎・高杉晋助の協力を得られる算段になっていると書かれています」
「将軍暗殺に桂と高杉が手を貸すと?」
「穏健派で通っている桂がそんな過激な作戦に手を貸すとは思えねぇけどな」
「そこなんです。どうして桂と高杉が徒勇隊の作戦に参加するのか、そのキーポイントになるのは、おそらくこの人質です。もしかしてこれは、さんのことなのではないでしょうか?」
ちゃんが?」

 近藤が厳しい顔をするのとは対照的に、山崎は不安げに視線を落とす。

「以前、知恵空党と真選組、そして見廻組との抗争事件がありましたよね。あの時、僕たちは伝説の攘夷志士をひとり見逃しました」

 沖田はため息をつきながら頭をかいた。

「白夜叉、坂田銀時だな」
「えぇ。今は善良な市民だと訴えてはいますが、副長は隙あらば手錠をかけようと手ぐすね引いています。僕が言いたいのは、さんは旦那と旧知の仲だということです。本人もいつもそう言っていました。さんは、旦那が白夜叉だと知っていて僕達には黙っていたということになります」

 近藤と沖田は息を飲んだ。
 山崎の言うことは、誰もがとっくに分かっていて、けれど誰もが口にすることをためらっていたことだった。けれど、どうやらもうそんなことを言っている場合ではなくなってしまったらしい。

 沖田は眉をひそめて言う。

「つまり、さんは旦那のみならず、桂や高杉ともつながっていると?」
「そう考えなければ、この書簡の意味が説明できないと思うんです。さんをさらったのは、桂や高杉との取引に利用するため。そうするだけの価値がさんにはあるということなんじゃないでしょうか?」
「つまりお前は、さんは真選組に送り込まれた攘夷浪士のスパイだって言いてぇんだな?」
「そ! そんなことは言ってません!」
「言ってるじゃねぇか」
「俺は! これまで真選組を支えてくれたさんを信じてますよ!」
「そのわりにはさんに不利益な話ばっかしやがる」
「止めねえか! ふたりとも」

 近藤が一喝すると、沖田と山崎は反射的に黙り込んだ。
 近藤は書簡を見下ろして、じっと腕を組む。

「ところで、総悟。お前の方はどうなんだ?」
「何がですか?」
「とぼけるな。昨日から屯所に戻ってなかっただろう。何か分かったんなら報告しろ」

 沖田は仕方なく、胸ポケットから携帯電話を取り出し、一枚の写真をふたりに見せた。大きな風呂敷包みを抱えた少女が木戸から出てくる瞬間が写っていた。

さんが捕らわれていたと思われる宿の娘です。昨日の昼過ぎに宿を出て、戻ってきたのは今日の昼前。宿屋の仕事といえば、夕方から客が寝静まるまでの夜中までが一番忙しいはずですけど、その時間にどこに行っていたと思います?」
「どこだ?」

 沖田は携帯の画面をスクロールする。

「この料亭です。城下では指折りの高級料亭で、顧客は政治家、実業家……、セレブ御用達ですね。あんな小さな宿の娘が出入りするにはちょいと妙だと思います。聞き込みもしましたけど、これまであの娘が泊りがけで宿を空けることはほぼなかったそうですよ」
ちゃんがそこに捕らわれている可能性はあると思うか?」
「そこまではなんとも。料亭の中まで確認できたわけじゃないんで」
「山崎、調べてくれるか?」
「分かりました。……さんの件については……?」

 近藤はしばらくじっとひとりで考え込んだ後、静かに告げた。

「確かなことは分からねぇが、何はともあれ、ちゃんを無事に助け出すことが最優先だ。まずはそのためにできることをしよう」

 沖田と山崎は納得できない顔をしたが、近藤に睨まれてしぶしぶ頷いた。

「この件、副長には?」

 近藤はこれまでに見せたどんな表情よりも辛そうに唇を噛んだ。

「一旦、俺に預けてくれるか? 他の隊士にもまだ話すな」










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