酷い頭痛で目を覚ます。今がいつで、ここはどこなのか分からず、見慣れない天井を見上げて、
は小さな子どものように途方に暮れた。
あの宿で、浪士達が慌ただしく脱走の算段をしていた中で突然、鼻先に妙な匂いのする小瓶を押し付けられてからの記憶がすっぽり抜け落ちている。薬で眠らされていたのだ。障子の向こうから差すのは朝日か、夕日か。自分がどれくらい眠っていたのかも分からなかった。
「おはよう。気分はどう?」
吉田が布団の上に寝そべる
の顔を覗き込む。
薬のせいでか、体が全く言うことを聞かなかったが、
は無理に顔を背けて吉田から逃れようとした。寝顔を見られたことが屈辱だった。いつの間にか着せられている浴衣、肩に下ろした髪。眠っている間に知らない誰かに体を触られたと思うと寒気がする。
吉田は
の頬に触れようとしたが、
はびくりと体を震わせたのでそっとその手を引っ込めた。
「昨日は、殴ったりして悪かったね」
の頬には白い湿布が貼ってあり、その上からでも分かるほど赤く腫れている。
「八つ当たりなんかして悪かったよ。本当、ごめん」
「謝るくらいなら、お願いだから私を家に帰して」
は吉田を見ずに、掠れた声で懇願した。
吉田はそれには答えず、懐から包み紙を取り出すと、
の枕元に置いた。包みには可愛らしいキャラクターの印刷がしてあって、ほんのりと甘い香りが零れている。
「これは僕からのお詫び。夕方には、あの宿の娘をここに寄越すよ。毎日ここに寝泊まりさせるから、何か必要なものがあったらその子に言って」
「……何にもいらないから、家に帰して……」
涙に濡れた
の声に、吉田は何も答えず、そのまま部屋を出た。
を監禁しているのは、とある料亭の離れだ。大都会江戸のど真ん中にあるとは思えないほど、昼なお暗い木立の中にひっそりとその平屋は建っている。元々、料亭に住み込みで働いていた料理人の住居だったのだが、料亭の主人が攘夷思想に傾倒していることが縁になって、今は徒勇隊の隠れ家として使われていた。
「良いのですか?」
離れの外で吉田を待っていた浪士が、険しい顔をする。
吉田は本意ではなさそうな顔をしたが、仕方がなさそうに頭をかいた。
「あの様子じゃ無理だよ。大事な人質だ。今はゆっくり休ませてやって」
「やはり薬を使ったのは間違いだったでしょうか」
「それを言うなら、手ぇ上げちまった俺の方が重罪だよ。もうすっかり信頼を失ったみたい。しまったなぁ」
「信頼って、そもそも誘拐犯みたいなものだったじゃないですか」
「そこをどうにかしようと頑張ってたんだよ、本当に」
「どうしてそこまでして……?」
吉田は自虐的に笑った。
「その方が今後いろいろやりやすいでしょ。高杉や桂の協力を得ようとしているんだ。彼女にこっちの味方についてもらった方が奴らを説得しやすいし、それに……」
「何ですか?」
「いや、何でもない。俺はちょっと出てくるから、くれぐれも見張りは頼んだよ」
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