『岩城屋の所有するビルで爆発が発生。その直後、万事屋、志村新八が連れてきた岩城屋の娘の飼い犬の首輪が爆発。爆発の直前に、首輪と爆発物の類似点に気が付いた隊士によって被害は最小に抑えられた。この犬は、直前まである宿の宿泊客に保護されていて、そいつが一連の事件の犯人である可能性が高いと思われる』

 近藤から連絡を受けた沖田は、一番隊の隊士達率いて、江戸のはずれにある宿の前に立った。昼日中、宿はしんと静まり返っている。
 隊士三人を宿の裏口に回し、沖田は七人の隊士と表玄関に立つ。息を潜め、踏み込む気を伺う。外からは宿の中の様子までは分からない。一か八かの勝負だ。

 沖田は神妙な顔で言った。

「抵抗すれば斬ってよし。ただ、目的はあくまでも捕縛だ。さんが囚われてる可能性もある。さんの身の安全を最優先に考えろよ」
「よぉし! やったるかぁ!! 攘夷志士だろうが何だろうが何でも来いヨオラァ!!」

 神楽は番傘を肩に抱え不敵に笑った。
 沖田の隣に立つ桃色の髪のチャイナ娘を囲んで、真選組隊士は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「……何でてめぇがここにいるんだよ?」

 沖田は神楽を睨み下ろしたが、神楽はどこ吹く風といった顔で腰に手を当てた。

「私もを探してたネ。後から来たのはお前らだロ」
「どこで嗅ぎつけてきやがったんでぇ?」
「女のカンヨ」
「どこまであてになんだかな、それ」
「お前よりはマシなはずネ」 

 沖田は山崎に「勝手にしろ」と言ったことを少し後悔したが、ここでつべこべ言っている暇はない。鞘から刀を引き抜くと、決然と言った。

「てめぇのたまは自分で守れよ」

 神楽は沖田が見据える宿を睨みあげた。

「お前もナ」





 沖田と神楽が宿に踏み込むほんの三〇分前のことである。

「一体これはどうしたの?」

 宿に戻った吉田はの部屋に入るなり、口をあんぐりと開けて固まった。
 は後ろ手に手を縛り上げられていて、それを取り囲むように徒勇隊の仲間が三人、抜き身の刀を構えている。は帯をしておらず、伊達締めが露になっていた。

「隊長! ようやくお戻りで!」
「すいません。この女、隙をついて逃げ出そうとしたものですから」
「逃げる? どうやって?」

 吉田はを逃がさないためにあらゆる手を尽くしているつもりだった。仲間にはの人質としての価値を十分に言い含め、宿の女将にも娘にも、絶対に目を離さないようよくよく言い聞かせていた。誰もが吉田が心から信頼している人間ばかりだ。その監視の目をかいくぐって、はどうやって逃げ出そうとしたというのだろう。

「こいつ、腹が痛いって仮病使って、厠の窓から逃げ出そうとしたんです」
「え? 二階の厠の? あんな小さな窓から? 格子はまってたよね?」
「立て付けが悪くなっていたようなんです。そこから、帯を綱代わりにして」
「わぁお。さんって見かけによらず肝が据わってるねぇ」

 部屋の中央でじっと唇を噛み締めていたの前に立ち、吉田はその横面を手のひらで打った。
 その衝撃に耐え、は吉田を渾身の力で睨み上げた。

「……女に手を上げる人だとは思わなかったわ」
さんがあんまり勝手なことするからだよ」

 を見下ろす吉田の目は、その軽薄な声とは裏腹に残虐さを秘めてほの暗かった。はぞっとした。どうやらこの吉田という男を見くびっていたらしいということに、この時ようやく気が付いたのだ。

「説教は後にしよう。岩城屋に裏切られた。直に真選組が来る。逃げるぞ」








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