を軟禁している部屋を訪ねて、吉田は目を細めた。
「何をしているの?」
は部屋の真ん中にきちんと背筋を伸ばして正座し、縫い物をしていた。四角く積み上げられた白い晒、裁縫箱の中には色とりどりの糸がグラデーションに並んでいて、待ち針が針山に綺麗に整列している。
「女将さんにお借りしたんです」
は晒の端を縫い合わせる手を止めず、つんとすまして答えた。
「そうじゃなくて」
「暇だったので、ふきんでも縫おうと思っただけです」
「
さん。昨日も聞いたけれど、人質になってるって自覚ある?」
「そんなこと言ったって、私の意志で人質になったわけでもあるまいし、吉田さんに言われたからってそういう風に振る舞う気になんかなりません」
は糸切狭で糸を切ると、まっさらな晒を膝の上に広げて糸を物色する。やがて選び出したのは、血のような色をした赤い糸だった。
「それ、どうするの?」
「刺し子って知ってます? ふきんに刺すと丈夫になるんですよ。花ふきんっていうんです。私の趣味です」
「へぇ。そう。まぁいいや」
吉田が体を横にずらすと、その足元に少女が膝をついていた。
「この子はここの女将の娘でね。僕の贔屓にしている子なんだ。僕はちょっと出掛けるから、暇ならこの子と遊んでやってくれる?」
少女は困ったように微笑む。その笑顔は、
が遊んでやらなければならないほど子どもじみてはおらず、むしろ本当の年よりずいぶん大人びているように見える。
「ずいぶんかわいらしい見張り役ですね」
「そうだろう? こんな子が相手なら、
さんもこの子を蹴っ飛ばしてここから逃げようとはしないだろうと思ってさ」
「そんな乱暴なことはしません」
「それを聞いてほっとしたよ。それじゃ、夕飯までには戻るから」
足取り軽く部屋を出ていく吉田を見送って、
は少女を見やった。少女は茶器を持って部屋に入ると、襖を背にするようにして
の正面に腰を下ろした。
「お茶はいかがですか?」
あどけない笑顔でそう言われて、
はつい口元を緩めた。
「えぇ、いただくわ。良ければあなたの分も淹れてくれる?」
「はい」
少女はお茶を入れながら、針を動かす
の手元をちらちらと盗み見ていた。
「興味がある?」
「いえ、裁縫は苦手なんです。私はそんなにきれいには刺せません」
「教えてあげましょうか? コツを覚えれば簡単よ」
「でも……」
「他にすることがないのよ。良ければ、暇つぶしに付き合ってほしいんだけれど」
少女は少しだけ考え込んだ後、花がほころぶように笑った。
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