この日、万事屋一行は一匹の迷い犬を探して町を歩いていた。
 犬探しの依頼が万事屋に舞い込んできたのは、もう一週間も前のことになる。依頼主はとある貿易商のお嬢様で、散歩の途中で逃げ出してしまったらしい。

「見つからないアルなぁ」

 ほとんど匙を投げた調子で、神楽が言う。

「探し始めて随分経つけど、もしかしてもう誰かに拾われちゃってるんじゃないかな。どう思います? 銀さん」

 新八は手がかりにと預かった写真を見ながら呟き、銀時は鼻くそをほじりながら答えた。

「もしかして、もう車に轢かれるかなんかしてんじゃねえの? そうだったらもう探しようがねぇな」
「死んじゃってたら報酬もなしで結局タダ働きなんてやってらんないネ」
「ちょっとふたりとも、縁起でもないこと言わないでよ!」
「どっちにしろ何か手がかりのひとつくらい見つけねぇと」

 けたたましいサイレンを鳴らしながらパトカーが三人を追い抜いていく。
 今朝のトップニュースで、商店街のど真ん中で爆破テロ事件が起きたと報じられていたことを思い出し、銀時はげんなりした。本当に世の中物騒になったものだ。商店街の入り口には規制線が張られていて、その前でちょっとした渋滞が起きていた。

「おや、万事屋の旦那」

 と、規制線の向こうから声を掛けてきたのは沖田だ。

「よぉ、沖田くん。仕事中?」
「見ての通りですよ。旦那はがきんちょ引き連れて散歩ですか?」
「ちょっと探しもんをね。こういう犬見なかった? もし道端でおっ死んでたら、警察で引き取られてると思うんだけど心当たりない?」

 銀時は迷い犬の写真を沖田の目の前に突き付けるけれど、沖田は目を細めるだけで受け取らない。

「旦那。こっちは爆破テロ事件の捜査中なんですよ。犬探しなら近場の交番にでも問い合わせてくだせぇ」
「そんな奴の手なんか借りる必要ないネ、銀ちゃん。どうせ仕事さぼってるせいで何にも知らないだけアル」
「言ってくれるじゃねーか」

 神楽が赤い舌を突き出して、不細工な顔であっかんべーするのを冷めた目で睨み返した沖田は、たった今思い出したような顔して言った。

「そういえば、さん見ませんでした?」
「あ? ? 見てねぇけどなんで?」
「昨日から屯所に帰って来ないんですよ。連絡のひとつもないんで、みんな心配してまして」
「あぁ、それであいつあんな顔してんのか」

 銀時が指差した方、黒焦げになった店の前、パトカーを横付けしたところに土方がいた。咥え煙草をしたまま隊士に指示を出しているが、あまり眠っていないようで土気色の顔をしていた。
 銀時は何もかも分かっているとでも言いたげに、沖田の肩をぽんと叩く。

「まぁ、大人の世界にはいろいろあんだよ。あんま触れてやるな」
さんが土方さんに愛想尽かしたって言いたいんですか?」
「愛想尽かしたとまでは言わんけど、男と女のことなんだから喧嘩のひとつやふたつしたっておかしくないだろ。ちょっと頭冷やしたらすぐ帰ってくるって」
「本当にそうならいいんですけどね」
「やけに心配してくれてんのな。沖田くんってそんなキャラだったっけ? 何? イメチェン?」

 それに沖田は答えず、銀時は神楽と新八を連れて人ごみの中に消えていった。

「良かったんですか? 本当のことを話さなくて」

 すぐそばにいたのに全く存在に気付かれていなかった山崎が不安げに言う。沖田は腕組みをしてぼやいた。

「何にも知らねぇ人間に余計な心配かける必要ねぇだろ」
「でも、旦那とさんは昔からの馴染みなんですから」
「じゃぁお前、旦那に言えんのかよ? さんが爆破テロに巻き込まれて死んじまったかもしれねぇって」

 山崎は喉に何かが詰まったような苦しい顔をした。

「死んだかどうか、まだ分からないじゃないですか」
「かもって言っただろう、かもって」
「僕は伝えるべきだと思います。旦那は顔が広いですし、さんを探すためにはひとりでも頭数は多い方がいいです」
「なら勝手にしろ。俺は別行動取らしてもらうわ」
「何するつもりですか?」
「別の角度から捜査する。もうこの辺り調べたって何も出てこねぇだろうし」

 沖田は、今日何本目か分からない煙草に火を着けている土方を遠目で見やると、静かに背筋を伸ばす。

「ま、あれがあんな調子じゃほとんどあてにならねぇしな」

 いつもそのくらい真面目に働いてくれれば自分が被る迷惑も半減するのになぁ、と山崎は思ったが、それは口に出さずに胸の内にしまっておくことにした。








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