「報告します」
真選組幹部が顔をそろえた会議室で、山崎が厳しい顔で口火を切った。
「本日、本町の商店街で爆破事故が発生。何らかの原因で発火し、それが灯油タンクに引火したことで誘爆、火災が広がりましたが現在は鎮火しています。死傷者多数で、被害の全容はまだ把握しきれていません。火元と思われる現場付近を調査したところ、爆弾の破片のようなものを発見しました。現在鑑識に回して詳しく調べているところですが、おそらく、過激派攘夷志士が作った手製の爆弾の一部だと思われます。それから、現場付近で不審者を取り押さえました。使途不明の火薬を所持しており、参考人として任意同行を求めたところ抵抗したため、現在は屯所の牢に捕えています。これから尋問を行う予定です」
「攘夷志士によるテロ、か」
「いやしかし、なぜ本町の商店街が狙われる? テロの標的となるしてはいささか地味過ぎやしないか?」
「政府の重要施設がそばにあるわけでもないしな……」
「場所ではなく、そこにいた人が問題だとしたら?」
「死傷者の情報はまだ上がってこないのか?」
「損傷の激しい遺体もあって、身元確認が難航しているようなんです」
「急がせろ」
「捕らえたという奴は?」
「所持していた運転免許証によると、名前は古高春太郎。通常では考えられない量の火薬を所持していました」
「何か話したのか?」
「いえ、知らぬ存ぜぬの一点張りです」
ひとしきり意見が出尽くしたところで、近藤がよく通る声で言い放った。
「これは、過激派攘夷志士によるテロ事件だ。どんな手を使っても構わん。一刻も早く星を上げろ。古高は火薬の運び屋とも考えられる。ならば、今後も同程度、いや、今回以上の爆弾を使う計画があるはずだ。これ以上の被害を出さないためにも、絶対に犯行を阻止するんだ。いいな!」
応、と声をそろえた幹部達は、土方に視線を集めた。各隊が担当する捜査の細かな点は、副長である土方が取り仕切ることになっている。土方は卓の上に書類を広げると、鞘に収めたままの刀でそれを差し示しながら役割分担を決めていく。
一番隊隊長である沖田は、それを片手間に聞き流しながら、部屋の隅であくびをかみ殺していた。せっかく今夜は落語物の再放送があるというのに、こんな事件が起きてしまってはゆっくり楽しめやしない。
と、沖田が背にしていた襖をほとほとと叩く音がして振り返ると、一番隊隊士の神山が青い顔をして襖の隙間から部屋の中を覗き込んでいた。
「なんだよ? 会議中だぞ」
沖田がこそこそと言うと、神山は口元に手を添えて囁いた。
「沖田隊長! 一大事です!」
「後にしろ。こっちは爆破テロ事件で忙しいんだ」
「そんなこと言ってる場合じゃないんですって!」
「俺だってお前の気持ち悪ぃ顔拝んでる場合じゃねぇよ」
「こっちだって好き好んで気持ち悪い顔に生まれたわけじゃありませんよじゃなくて! 大変なんですって、
さんが!」
「
さん?」
「
がどうしたって?」
ふたりの会話を、土方が一刀両断した。土方は「何をこそこそやってんだ?」と言いながら、勢いよく襖を開く。
床に膝をついた神山の後ろに、食堂で働いている女中が不安げな顔で控えていた。
「副長! 一大事です!
さんが!」
神山は大声を出したくせに、その後の言葉が続かなかった。両手を振って何か訴えようとしているが、身振りばかり大きくて何を言いたいのかさっぱり分からない。見かねた女中が膝を滑らせた。
「あの、
さんがまだ屯所に戻っていないんです」
土方は無意識に刀の柄をぎゅっと握りしめた。
「戻ってない?」
「はい。昼過ぎに買い付けに出てそのまま。夕飯の配膳までには戻ると言っていたんですが、今までこんなことはなかったので心配で……」
時計を見ると、もう夜の九時を回るところだった。
近藤が口を挟む。
「
ちゃんが屯所を出たのは何時頃だ?」
「昼食の片づけが終わってからですから、午後一時半頃です」
「連絡はないのか?」
「はい」
「どこへ出掛けたのかは?」
「いつもなら、商店街の方だと思うんですが、
さんは寄り道もよくされてたようでしたから……」
「あぁ!!」
声を上げたのは原田だ。
「……俺、見ました。
さん」
「何!? どこでだ!?」
注目を集める中、原田は真っ青に青ざめ、喉の奥から絞り出すような声で言った。
「本町の、商店街の入り口で……」
途端、土方は刀だけを掴んで駆け出した。その後を、山崎が慌てて追いかける。残された幹部達は顔を見合わせ、落ち着かない頭で状況を整理した。
「……つまり、あの爆発現場に
さんはいたかもしれないってことか」
「……で、屯所にまだ戻っていなくて」
「……連絡もない、と」
沖田は立ち上がると、ついさっきまで土方が指示を出していた場所に立ち、いつもと変わらぬ声音で言い放った。
「おい。死傷者リストってまだ上がってきてねぇのか?」
「おい、総悟!」
近藤が沖田の肩を掴んで叱責するが、沖田はあくまで冷静な顔をして答えた。
「それが現実なら、ちゃんと受け入れなきゃなんないでしょ。それにしても、今から現場行ったって、怪我人の搬送も済んでるんだから意味ないでしょうに。鬼の副長と呼ばれる男がみっともないったらねぇぜ」
「……頼むからそれをトシには言ってやるなよ」
近藤は気疲れした顔で嘆いたが、すぐに気を取り直して胸を張った。
「俺達が今やらなきゃならねぇことは、一刻も早く星を上げること。そして、
ちゃんの無事を確認することだ。皆、気合い入れて行けよ!」
さっきよりも大きな、勇ましい決意に満ちた声が屯所中に響き渡った。
次
2/4 20161129