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01 季節と若さの熱気が身体中にまとわりついている。こんな人混みは久しぶりすぎて、は若干気分を害しながら自動販売機の横でちまちまと缶ジュースを舐めていた。 が正式に退院を果たしてから一週間が経っている。その間には引っ越しや転入手続きが重なって慌ただしく、今日はその合間の休日だ。本当ならこの病み上がりの今、静かに読書でもして過ごすべきであって、間違っても炎天下のサッカー場になんかに来るべきではないのだ。けれどそうさせたのは椎名翼だ。彼らしいことと思えばそうだけれど、にとっては迷惑と言って間違いはない。 と、の肩をとんとんと叩く人がある。振り向いたが見たのは心配そうな顔をした黒川だった。 「何やってんの? もうすぐ試合始まるぜ」 「うん。分かった。今行く」 「具合悪いのか?」 が今いる位置はちょうどよく日陰になっていて、その中でぼんやりつったっている様子が黒川からはそう見えたのだ。 けれどはきょとんとして、ふるふると首を振った。 「いや、別に。大丈夫」 確かに、気分は悪いがそれは体調の問題ではなかったので、あながち嘘でもない。 「そうか。あんまり無理すんなよ」 「ありがとう。ていうか、黒川くん早く行かなくていいの? スタメンでしょ?」 「がちゃんと来るんなら行くけど。後で翼にどやされんの俺だからさ」 「いや、ちゃんと行くし。子供じゃないんだから」 黒川がそっかとうなずいて駆けて行くのを見送って、はまだ重い缶を見下ろした。ああは言ったものの、正直疲労が溜っていて辛かった。いくら椎名の要請だとはいえ、少し思いやりがたりないんじゃないかと溜め息とともに思う。 重い足取りで踵を返すと、ふと思いがけず見知った顔と目が合った。 「「あ」」 声が重なったのは水野竜也だった。けれど、先に会話が成り立ったのは隣にいた右腕を包帯でつった金髪の男子、佐藤成樹だ。 「あれ、やんか。何しとんねん、こないなとこで」 は皿のように丸く目を見開いてぽかんとする。 「さ、佐藤くん」 名前を呼ぶことすら精一杯で、そのの様を見て佐藤は面白そうに笑った。 「おう、久しぶりやな」 「……そうだっけ?」 「7月からこっち会うてなかったやんか」 「そうか。うん。そういえば」 「なんやねん、歯切れ悪いな。腹でも痛いん?」 「いや、別に」 「おい、ちょっと、いいか。シゲ」 と、水野がようやく会話に割って入ってきた。佐藤はまるで今水野に気が付いたようにおどけて返事をした。 「おぉ、なんやタツボン? に一目惚れでもしたんか?」 「違う! お前、さんと知り合いなのか?」 「いやぁ、タツボンには教えたないわぁ」 「なんでだよ!」「なんで?」 と、再び二人の声が重なった。佐藤はそっちこそなんなんやねんと笑いを堪えながら言っていた。水野が本気でイライラしているのが感じ取れたので、は当たり障り無くフォローする。 「私、都選抜のマネージャーしてるの。佐藤くんとは友達」 前半は佐藤に向けた説明で、後半は水野に向けたそれだ。二人はある程度納得した様子で頷いた。 「椎名の試合見に来たのか?」 「うん。今から始まるって」 「姫さんとそんな仲いいん?」 「”姫”?」 「椎名とははとこだろ。それは聞いてなかったのか」 「は? 親戚?」 「言ってなかったっけ?」 「知らんわそんなん。初耳やで」 「でも佐藤くんが翼のこと知ってるって知らなかったし……」 と、その時遠くでホイッスルの高い音が鳴った。どうやら試合が始まってしまったようだ。二人とこれ以上打ち明け話をしていても埒があかない気がしたので、は一方的に会話を打ち切った。 「私翼の試合見に行くけど、」 「俺たちも行くよ」 「ほんなら一緒に行こか」 佐藤はどうしてか二人の先に立って歩き出してしまったので、その隙にとは水野に耳打ちした。 「ねえ、佐藤くんってサッカーで怪我したの?」 「あぁ。地区予選の決勝の時に」 「そうなんだ」 「それがどうかしたのか?」 「ううん。あんまり部活一生懸命やってるイメージ無かったから。ちょっとびっくりしただけ」 水野はなんと答えていいのか分からないといった様子で視線を泳がせて、結局何も言わなかった。も何を求めているわけでもなかったので、「言ってみただけだよ」と独り言のように呟いた。 20070929 |