ちぎり を むすぶ











 待ちわびたノックの音を聞いて、は扉に飛びついた。転がり込むように部屋に入ってきた土方は、何か言うよりも早く口づけをする。その勢いに押されては体のバランスを崩したが、土方が腰を掴んで支えてくれた。

「やっと自由になれた」

 土方は愚痴っぽく言った。
 は肩越しに土方を見上げながら言う。

「遅いから、もう来ないのかと思いましたよ」
「松平のとっつぁんに付き合わされて少し飲んでたんだよ」
「お仕事の話ですか?」
「はじめだけな。八割方は近場のスナックの女の話聞かされた。あの親父は本当にどこにいても変わらねぇな」
「まさか、今夜も将軍様を連れ回してるんですか?」

 そよ姫は今夜、兄と夜通し人生ゲームをすることを楽しみにしていたのだ。そのことを思うといたたまれな気持ちになって、はつい大きな声を出してしまう。

「いや、今日はさすがに断られたらしい」

 土方は安心させるようにの背中を撫でた。

「ならよかった。姫さま、本当に楽しみにしてらしたんですよ」

 ふたりで広縁に立ち、窓から温泉街を見下ろした。ガス燈に火が入り、夜の闇に幻想的なオレンジ色の光が浮かび上がっている。思わず見入ってしまうような美しい景色だ。

「いい部屋だな」
「そうですね、さすが将軍様御用達」

 は横目で土方を見やって、にんまりと笑った。土方は宿備え付けの浴衣を着ている。白地に紺色で柄を染め抜いたもので、も色違いの桃色の浴衣を着ていた。なんだかこそばゆい。

「沖田くんは、今夜どうしてますか?」
「警備の任務だ。ついでに、将軍様とそよ姫に付き添うらしい」
「それはきっと盛り上がりますね」

 ふと目を上げると、土方がじっとを見下ろしていた。の瞳の奥にある小さな的を射抜こうとでもするような、熱く鋭いまなざしだった。

 胸が高鳴る音を聞いて、は口を噤んでしまう。見つめられれば見つめられるほど、体が鉛のように固くなっていく。何かたわいもないことを話して土方と笑い合いたいと思うのに、何も言葉が出てこない。

 土方の手がの顎を持ち上げると、わけも分からず涙が出そうになった。子どもの頃から思い描いてきた夢が目の前で現実になろうとしているのを見るような、奇跡の瞬間に立ち会っているような気持ちがした。

 今までした中でも一番優しい口付けをしながら、土方は静かに背中を撫でてくれた。その手つきはぐずる赤ん坊をなだめるような仕草で、土方の腕に身を任せて何の心配も不安も感じない、私はただの赤ん坊に戻ったような気になる。
 高い音を立てて唇を離した土方は、至近距離で言った。

「明日も仕事か?」
「えぇ。でも、姫様には、明日は昼まで起こさなくていいって言われてます」

 は腰を土方の太腿にこすりつけるようにして体を寄せる。土方はの顎の線を指の腹でなぞりながら唇の端を持ち上げた。

「それじゃ、時間はたくさんあるな」

 言うなり、土方はの腰を引いて部屋の奥に入った。そこには仲居に頼んで用意してもらったふたり分の布団が並べて敷いてある。その一方に腰を下ろした土方は、を自分の膝の上に座らせる。は浴衣の裾を割り、両膝を開いて土方の足の上にまたがった。

 そして、土方はあらん限りの力での腰を引き寄せて口付けをした。今までとは打って変わって、舌を使った激しい口付けだ。

 土方の手が浴衣の下に侵入して下半身をまさぐってくる。その激しい手つきに意識を持っていかれてしまわないよう、は必死に土方の首にしがみついた。
 しばらくの間、お互いの呼吸だけで会話した。

 いつのまにかはだけてしまった胸元に、土方が唇を押し当てて強く吸う。唇の内側の粘膜が肌に触れると、そこから電気が走るような快感が襲ってきて溢れるような声が出た。

 夢中になってに吸い付いてくる土方は、母犬の乳を求める子犬のようだ。愛おしさが後から後からこみ上げてきて仕方がなくて、は土方がやりやすいように胸を開いて、気がすむまで好きなようにさせてやった。

 どれくらいそうしていたのか、やがて帯だけを残してすっかり肌を露出したの肌には、赤紫色の斑点がいくつも散らばっていた。

「わ、すごい」

 が素直に感心して呟くと、土方は後悔と満足が入り混じったような複雑な顔しての裸の胸を見下ろした。

「悪い。やり過ぎたな」
「いいんです。大丈夫ですから」

 ふと、胸の位置から土方に睨み上げられ、の心臓が跳ねた。

「あのな、前から言おうと思ってたんだけどよ」
「はい?」
「ふたりっきりのときぐらい、その敬語やめねぇか?」
「え、今更?」

 言ってしまってから、はすぐに後悔した。土方の眉間のしわがみるみる深くなる。鋭さに怒りが混ざったまなざしに怖気付いて、とっさに体を離そうとしてしまったのもいけなかった。

「だって、そんな、大したこととは思ってなくて……」

 は言いわけがましく言ったが、土方は歯牙にもかけない。

「大したことじゃねぇんなら直すのも簡単だろ」
「でも、」
「別に外国語しゃべれって言ってるわけじゃねぇんだから」

 土方はの首筋に唇を押し付け、もうひとつ痕を増やす。首筋を彩るそれはネックレスの鎖のようにを飾り、は痕がひとつ増えるたびに身悶えした。

「何か話せよ」

 唇を肌に押し付けたまま囁く土方の声には参ってしまった。体を密着しているせいで、声帯の振動が直に伝わってくる。鳥肌を立てながらはなんとか答えた。

「何かって?」
「何でもいいから」

 腰を掴んで離さない土方のたくましい腕、首筋を這う唇と熱い息、腹の下で土方のものが膨らんでいるのが感触で分かる。それを想像するだけで下っ腹の奥が切なくなってしまって、こんな状況ではとっさに何も思い浮かばない。
 土方に催促するように見つめられて、は苦し紛れに言った。

「みんなへのお土産、たくさん買っちゃったから、持って帰るの手伝ってね」
「あぁ、分かった」

 土方はの耳たぶを噛みながら答えた。舌の上で耳たぶを転がされ、そのままの距離で話しかけられる。体の内側から愛撫されているようで今にも気が触れてしまいそうだった。

「何買ったんだ?」
「お酒と、お漬物と、お肉。みんなで食べようと思って」
「俺には?」
「それはまだ」
「なんで」
「何がいいのか分からなくて。喧嘩してたから」
「ふーん」

 言って、土方はの耳の裏側を舌を使いながら吸った。その瞬間、はあられもない悲鳴を上げた。

「だめ、そこ、弱いから」

 とっさに抵抗したが、土方は悦に入ったように笑った。

「まだ痕付いてねぇよ」
「やだ、見えるとこ、だめ」

 なんとか逃れようと体を反らしたら、これ幸いと布団に押し倒されてしまう。耳の後ろに吸い付きながら、土方は手際よくの帯を解いた。の体に跨った土方は、次にが何を言うか、土方は興味深そうな顔をしている。
 はかすれる声でなんとか言った。

「お土産、何がいい?」
「何でもいいのか?」

 土方は膝を使っての足を割った。そこはすでに失禁したのかと思うほどぐっしょり濡れている。

「これがいい」

 土方は手早くコンドームをつけると、の目を見つめながら中に押し入ってきた。体の中の空白が満たされる感覚、その多幸感にめまいを覚えては思わず呟いた。

「うれしい。私もずっと欲しかったの」

 土方は勢いよく腰を突き上げ、は喘ぎ声を上げながら土方の首にしがみつく。

 土方は何度もの名前を呼び、もそのたびになんとか答えようとしたが、全て嬉しい悲鳴の中に紛れて土方には届かなかった。土方の体が離れそうになれば、離さないでと伝えるために腕を掴み、土方が好きだと言えば、それに応えるために口付けを返した。

 ふたりの意識がふたつに溶け合って、体を離れた高いところに昇っていくようなイメージが何度も浮かんだ。後から思い返せばその度にいっていたのだと分かる。心も体もどろどろに溶けて、土方の体の中に自分の体が溶けていく。夢のように心地良かった。

 極楽というものがこの世の中にあるのなら、それはこの感覚のことを言うのだ。土方の腕の中ではそれを確信した。





「お水、飲みますか?」

 ミネラルウォーターのペットボトルを差し出しながら、が何食わぬ顔で言う。土方が布団に寝転がったまま返事をしないでいると、ははっとして言い直した。

「お水、飲む?」
「あぁ、もらう」

 上半身を起こして水を飲み、蓋を開けたままに返す。は小さな口でついばむようにペットボトルを傾け、土方からキャップを受け取って蓋を閉めた。

「やってる最中じゃねぇと話せねぇの?」

 土方はの膝の上にごろりと横になって言った。
 は苦笑いをしながら、土方の髪に指を絡めてきた。の冷たい指が地肌に触れるのは心地が良い。

「慣れてないの。ごめんなさい」

 のゆるく着付けた浴衣の襟から、土方が残した生々しい痕が見えていた。首筋に浮いた痕に指を滑らせると、は首をよじってその手を避けた。

「やめて、くすぐったい」
「あざだらけだ」
「誰がつけたと思うの」
「悪かったって」
「本気で思ってなんかないくせに」
「思ってるって」
「じゃぁこれでおあいこね」

 は土方の手を取ると、その手の甲に唇を押し当てる。そこには、少し前にが引っ掻いてできた白い影のような傷跡がまだほんのりと残っていた。
 俺達は、傷つけ合うことを避けられない。

 そんな考えがよぎって、土方は妙に納得した。心から大切に思って、どんな危険からも守ってやりたいと思っているのに、結局その気持ちとは裏腹なことをしてしまう。どんなに固く心に決めても、これは避けられないことなのだろう。
 けれど、後悔はなかった。を傷つけたくないと思うのも、痣まみれにして印を体に刻み付けたいと思うのもどちらも本心だ。そのどちらをも、は許してくれているような気がした。

 ふいに、が遠慮がちに言った。

「あのね、言葉遣いのことなんだけど」
「ん?」
「私を育ててくれた先生が、いつも敬語で話す人だったの。誰にでもよ。それを聞いて育ったから話しやすいのよね。だから、他人行儀なつもりはないってことは分かってほしい」
「そうか、覚えとく」
「ありがとう」

 と、は土方の手の影に隠れるようにして笑った。

「なんだよ?」
「だって、変な感じ。そう思わない?」

 こんなに気安い口調で土方に話しかけてくる女は滅多にいない。近藤に無理矢理連れていかれたスナックのやけにテンションの高い女にあまりにも馴れ馴れしくまとわりつかれて辟易したことは何度かある。

 それと比べて、が親しげに使う言葉はそれとはまるで違った。声色までいつもと違って聞こえるような気がする、ころころと鈴が転がるような優しい声音が心地良くて、いつまででも聞いていたくなる。

「変じゃない」
「本当?」
「あぁ、ずっとそうやって話してればいいのに」
「鬼の副長が家政婦とこんな調子で話してたら部下に示しがつかないんじゃない?」
「知るか、言わせたい奴には言わせとけばいいんだよ」
「そんなこと言って、みんなの前で馴れ馴れしくしたら土方さんは絶対怒るわ」

 の笑い声が指先から身体中に伝わった。昼間、あんなに怖い顔をして怒鳴っていたのが嘘のように力の抜けた笑顔だった。

 土方は勢いをつけて起き上がると、の手を解いて言った。

「もう1回」
「へ?」

 笑いながら驚いたせいでが妙な声を出す。つられて土方も笑ってしまい、ふたりで笑い転げながら布団の上に倒れた。

「やだ、やめて」

 の笑い交じりの悲鳴は無視して、太腿の裏を押し上げて足を開く。の体の奥に繋がる入り口が、行燈の光を浴びてつややかに光っているのがあらわになる。

 なぜかそれは、土方が若い頃、腹を空かせて分け入った里山で飢えを凌いだ野生のアケビの実を彷彿とさせた。熟しきって縦に裂けたところから、白いゼリー状の実と黒い種をのぞかせる果実。喉の奥から唾液が込み上げてきて、土方は大口を開けてかぶりついた。

 が気持ちのいい声を上げるのを聞きながら、熱い果実に舌を這わせる。奥から溢れてくる果汁は記憶と同じほのかに甘い、懐かしい味がした。
 土方が音を立てての蜜を吸い上げると、はひと際大きな声で喘ぎ、びくびくと腰を震わせた。喉を鳴らして蜜を飲み込んだ土方は、濡れた口元を親指で拭う。

「美味い」

 はとろけるような目をして、恨みがましく言った。

「……いじわる」
「なんだよ。よがってたくせに」
「強引なのはいやよ」
「じゃぁ、どんなのがいいんだよ」

 すいと、の腕が下の方に伸びて、静かに首をもたげていた土方のそれに触れる。のねだるような瞳に反応して、それは静かに硬度を増した。

「一緒に」

 小鳥がえさをついばむように唇を合わせながら体を起こす。手のひらの中でコンドームのパッケージを開けたら、の手がそこに滑り込んできた。どうするのかと思えば、それをさっと口の中に入れ、そのまま土方のものを咥えて愛撫しながら、器用に根元まで被せてくれた。

「できた」

 出来上がりを見て満足そうに笑うは、砂の城を完成させて喜ぶ無邪気な子どものような顔をしていた。きらきら光る瞳が本当に幼い子どものようで、このまま好きに遊ばせてやりたいような気持ちになる。

「お前、上になるか」
「いいの?」

 ぴょんと飛び上がりそうに驚いた顔がおかしくて、土方は笑いながら頷いた。
 は土方の上に跨ると、土方の腹筋に片手をついて腰を浮かす。もう片方の手で土方を入り口に誘導すると、ゆっくりと土方を体の中に招き入れた。土方はの腰を両手で挟むように持ち、が腰を上下させるのを支えてやった。
 がうっとりと微笑む。

「ずっと、こうしてあげたいって思ってたの」

 は土方のそれを隅々まで味わうように、ゆっくり腰を上下した。おかげでの中から出たり入ったりする様子がしっかり目視で確認できた。お互いの茂みが触れ合うたびにかさこそという音まで聴こえて、まるで内緒話でもしているようだ。

 手を伸ばしての胸を下からすくい上げるように揉むと、は甘い息をこぼして喉を反らせる。

「あ、それ、すき」

 指の間に突起を挟んでこねてやる。の眉根が苦しそうに寄って、土方を締め付ける力が強くなる。手をかければかけるだけ反応してくれるのが嬉しくて、土方はその感度の高い胸で思う存分楽しんだ。

 けれど、楽しんでばかりもいられなくなってくるのにそう時間はかからなかった。腰から下全部を使って土方のものを、締め上げ、あるいは揉みしだき、精を絞り出そうとするの腰は、何か別の生き物が乗り移ってしまったように絶え間なくうねうねと動いている。土方の手はいつの間にか役目を終えて、ただの太腿を撫でるだけの棒切れになっていた。

 顎を反らせ胸を揺らし、潤んだ目を細めて土方を見つめるは、支配的で情熱的で、いっそ女神と言ってもいい風格があった。土方は震える声で喘ぐと、は包み込むような笑顔を浮かべて言った。

「気持ちいいの、土方さん」
「すげぇ、気持ちいい」

 土方はなんとか答えた。唾液で濡れたの唇があんまり柔らかそうで、このまま何も言わずに口付けをしてほしいと思っていた。

「いきたかったらいってもいいのよ」
「それはだめだろ」
「我慢しないで、すごく辛そう」
「一緒にって言ったのはお前だろ」
「じゃぁ、もう少しがんばって。もう少しよ」

 土方はふいに気が付いた。子どものように無邪気に土方にまたがっていたはずのが、いつの間にか色を売る娼婦になっている。

 はきっと、こういうやり方で体を売り、多くの男達を喜ばせてきたのだ。そのことが文字通り、手に取るように分かってしまって、土方は涙が出そうになった。

 はいよいよ激しく腰をくねらせながら天を仰いで声を上げている。体全部を使って土方を喜ばせようと一心不乱に腰を振るが、土方はただただ誇らしかった。その体ひとつで人生の荒波を超えていく。これがの生き様なのだ。それはなんて美しいのだろう。

 土方はとっさにの手を取ると、力任せに腕を引いた。胸の上に倒れこんできたを、土方は無我夢中で抱きしめた。

、愛してる」

 涙に湿った、切羽詰まったような声が出て、みっともないような気もしたけれど構わなかった。どうせに攻められていく寸前だったのだ、これ以上恥ずかしいことなんて何もなかった。

 は沈黙している。あんなにしつこく動いていた腰も、土方を咥え込んだままぴたりと動きを止めてしまった。体の上で潰れているの胸の柔らかさを感じながら、土方は呼び掛けるようにの背中を叩いた。

 もしかしたら、聞こえなかったのかもしれない。もう一度言う。

「愛してるよ、

 やっぱり反応がない。

 土方はの長い髪をかきあげてやった。なんとかの耳を探り当てたが、それはどうしたことか、茹でたタコのように真っ赤に染まっていた。

「顔、見せろよ」

 耳の先に口付けるようにして言うと、は肩を震わせながらやっと顔を見せてくれた。その瞳には涙が浮いていた。

「なんで泣いてんだよ」
「土方さんが変なこと言うから」
「変ってなんだ」
「侍はそんな言葉使わないわ」
「時代は変わったんだよ」

 土方はを抱え直すと、膝を立てて腰に力を入れる。気を抜くと今にもいってしまいそうで気合いを入れ直す。どんな重要任務についている時でさえこんなに集中力を駆使することはないと、自嘲気味に思う。

 土方の言葉を受け止めきれず、照れたような、困ったような顔で泣いているの顔を見つめたまま、土方はの尻を掴んで下から勢いよく突き上げた。
 は声にならない悲鳴をあげた。軽くいったようで、中がびくびく痙攣しているのが伝わってきた。

「気持ちいいか?」
「は、はい」
「はいじゃねぇだろ」

 もう一度、強く突き上げる。の目の焦点がずれて、口の端からこぼれた唾液が土方の胸を濡らす。見上げれば、正気を失ったような顔をして甘えてきた。

「きもちいい」

熱に浮かされたような声で、は言った。

土方はもう一度同じ言葉を繰り返した。

「愛してる、

がぎゅうぎゅう締め付けてきて、お互いに限界がすぐそこまできていることが分かる。もうこれが最後のつもりで、土方は激しく腰を上下させた。は泣きながらがくがくと体を震わせ、髪を振り乱して喘いでいる。愛おしくて愛おしくて、その顔がぐちゃぐちゃに歪むところをずっと見ていたいと思う。

「わ、わたしも」
「わたしも? なんだよ?」

朦朧とした目で、が土方を見つめてきた。

「あいしてる」

土方は喘ぎ声が混ざる怒鳴り声で繰り返す。

「俺も、あいしてる」
「あいしてる、十四郎さん」
、あいしてる」
「もう、いく、十四郎さん、いっしょにきて」

そしてふたり一緒に、獣が咆哮するような声を上げて抱き合ったまま同時に達した。





気づけば、朝になっていた。

窓から差し込む白い光が、鋭い針のように部屋に差し込んでいる。布団の上からぼんやりとその光を見ていた土方は、隣で横になっているに肩を叩かれて首を傾けた。

「あのね、お願いがあるの」

土方の肩に頭をもたせ掛けて見上げてくるは、ゆでたまごのようにつるりとした肌と寝乱れた髪がちぐはぐな雰囲気だ。体は痣だらけで、見るからに体のどこにも力が入っておらず見るからにくたくただった。

土方はの額に流れた前髪をかき上げてやりながら答えた。

「なんだ?」
「いつか、私が裸じゃない時にもあれ、言ってくれない?」
「何を?」
「分かるでしょ」
「分かるけどよ」
「からかわないで」

はくすくすと笑いながら、土方の胸に腕を乗せて頬杖をついた。少女のような微笑みを、朝一番の白い光が照らす。

「いいよ。そのうちな」
「じゃ、ゆびきり」

は土方の手を取ると、無理矢理小指を絡めて、短いわらべ歌を歌った。寝起きのかすれた声で歌うその歌はなんとも言えず色っぽくて、土方はこの歌声を決して忘れないよう、じっと目を閉じて耳に焼き付けた。

指切ったと、歌い終わったは、土方の胸の上に寝そべって満足げに笑った。










(むすぶ【結ぶ】 約束などを決めること。)


20181119