おとなしい指は声にならない






 機嫌が悪い時の土方さんは分かりやすい。瞳孔の開いた目は座り、口数は少なく、たまに口を開いたと思ったら低い獣のような声で唸るように一言二言、ひっきりなしに煙草を吸っているから身体中に白い煙をまとっているようになる。まるで地獄の釜の前で罪人を熱い湯に浸けて拷問する鬼のよう。

 何か、仕事で嫌なことがあったのだろう。思い通りにことが運ばなかったか、攘夷浪士を取り逃がしたか、難しい事件に頭を悩ませているか、誰か幕府の偉い人にお小言をくらったか、問題児の部下に振り回されたのか。原因はいくらでも想像できる。土方さんの仕事は本当に責任重大で大変らしいと、みんな言っているから私もそう思っている。

 けれど、実際にその仕事ぶりを見ているわけではないし、具体的にどんな仕事をしているのかを聞いたことはない。はじめにそういう約束をしたので、私は律儀にそれを守り続けている。

 私といる時くらいは仕事のことは忘れて欲しかったし、顔を見れば心が休まって安心できるような存在になりたかった。ちがう言い方をすれば、仕事を離れた時くらい私のことだけを見ていて欲しかったし、他の誰にも見せない顔を私にだけは見せて欲しかった。

 だから、これもきっと私が欲したものの一部なのかもしれない。

 機嫌が悪い時の土方さんは分かりやすい。優しくする気が全然ない。自分勝手で、ちょっと待ってほしいといくら言っても聞く耳を持たず、力任せに体を押し開いて無理やりねじ込んでくる。

 痕が残るほど強く掴まれた腕、帯も解かずに無理に脱がされた皺の寄った着物、準備ができていないまま無理に押し込まれたせいで終わった後にじんじんと熱く痛む体。

 こういうときの土方さんは何を考えているのか分からない。仕事で何か嫌なことがあったならそう言ってくれればいいのに、はじめにした約束を土方さんも律儀に守って何も話してくれない。嫌なことがあったならそう言って甘えてくれればいいのに、天にも届くほど高いプライドのせいでそんなことは絶対にしてくれない。私はいつでも両手を広げて待っているのに、いつでも飛び込んで来たらいいのに。待っているときにはこないくせに、私が他のことにかかずらわっているときに限って無理に手を出してくる。まるで寂しい時だけかまって欲しがる猫みたい。

 正直に言えばいいのに、何もかも。終わった後、ぐちゃぐちゃになった私を見て自己嫌悪に潰れそうな顔をするくらいなら。

「……わるかった」

 謝るくらいなら、最初から私を泣かせるようなことしなければいいのに。

 土方さんのそういうところがときどきすごく嫌でかわいくて指先でぎゅっと抱きしめてあげたくなる。






20170605



拍手御礼夢、再録。 title by OTOGIUNION