目を覚ますなり、土方さんは私の上に跨って唇を押し付けてきた。
ぱくりと私の唇を挟み込んで、優しく吸う。角度を変えて同じこと何度もしてから、私の顎に手を添えて、舌で唇を割り開く。土方さんの舌が私の舌を招く。熱い息とよだれが混ざる。土方さんの唇は煙草の味がしてとても苦いのに、もっと味わいたいと思ってしまうのはいつも不思議だ。もっと欲しくてそっと舌を差し出したら唇で吸い上げられて、それでもう息ができなくなった。
まるで喉の渇きを癒そうと泉に首を伸ばす野生動物のようだ。必死に舌を伸ばして絡める。この勢いについていけているのか分からない。求められるとおりに、私はすっかり体を預けることができている? 分からない。頭が正常に働かない。唇の熱さがゆっくりと全身に広がっていくのが分かる。その熱さにあてられて、ぞくぞくと背筋を何かが走って消えた。怖くなって両手を握りしめると、指が土方さんの着物を皺になるほどの力で掴んでいた。
「ちょ、はぁっ、まっ、て……っ」
息継ぎの合間にようやくそれだけ言うと、やっと土方さんは舌を休めてくれた。お互いのよだれで濡れた口元が水っぽい音を立てて離れる。
「悪りぃけど、もうおさまりつかねぇんだよ」
切羽詰まった調子で、土方さんが訴える。熱い息だけの声が顔にかかるだけでくらくらする。下っ腹に押し付けられたそれは浴衣越しにも硬く熱くその存在を感じられて、触ってもいないのに私の太腿の間はしっとりと濡れた。
あぁ、今すぐ欲しいかもしれない。お腹の奥が切なく熱い。
でも、私を真っ直ぐに見下ろしてくる、影の深い落ち窪んだ目元。頼りない首、暗闇の中でもその顔色が優れないことはよく分かった。
「……だいじょうぶ?」
「あぁ? なにが?」
「だって、なんだかとても、具合が悪そう……」
と、土方さんの手が、ぐいと私の顎を掴んで脅すように力んだ。え、なに? ちょっと痛いんですけれど? 私、何かまずいことを言った? さっきまで感じていた熱さがさぁっと音を立てて引いていく。土方さんの目が怖い。闇の中でも暗く輝く瞳が、獰猛に私を睨んでいる。
「てめぇ俺がそんなひ弱な人間だとでも思ってんのかよ?」
「えぇ? そんなこと言ってな……」
「あれだけ働いて働いて疲れ果てた後にこんだけ寝たらこうなるわ当然だろ」
ぐいと、お腹に熱い棒を押し付けられる。何だかさっきより大きくなっている気がして、ちょっと見てみたいなと視線を下に落としたらまたすごい目で睨まれた。なによもう、なんなのよ。
「付き合えよ。切羽詰まってんだよこっちは」
「分かった、分かりましたから。でも、本当に無理しないでくだ」
言い終わる前に唇を塞がれる。苛立ちまぎれに荒っぽく。
「無理じゃねぇし」
子どものように拗ねた声を出して、土方さんは私の腰の帯をするりとほどいた。
いいの、するのはいいのよ。でも土方さん。さっきまで自分がどういう状況だったか分かっている? 疲労困憊の体で、爆発に巻き込まれて気を失って倒れたのよ。一晩くらいゆっくり休んだほうがいいに決まってるじゃないの。そりゃ、勝手に添い寝していた私も悪いけれど。
でも、そんな酷い顔をしたまま抱かれたって、素直に体を預けたりできそうにないのよ。
土方さんの手が、私のささやかな胸を掴む。乳首を吸う。私の体が跳ねる。悔しい、不安だ。私の胸に吸い付く土方さんを上から見ていると余計に目元の影が深く見えて、なんだかもう泣きたくなってくる。痛々しい。やめて欲しい。そんな顔で抱かれたって私ちっとも嬉しくない。
「ね、え、土方さ、ん」
「ん?」
「ね、え!」
私は渾身の力を振り絞って、土方さんの肩を両手で押し返した。胸元だけ肌蹴た私の上で、土方さんは心底不機嫌そうに眉根を寄せる。
「あんだよ?」
「私にさせて」
「何を?」
「舐めるの」
「ぜってぇやだ」
土方さんはぐいと私の乳首を摘んだ。くぐもったあえぎ声が出てしまう。痛いんだか気持ちいいんだか自分でも分からない。
「なんで?」
「やなもんはやなんだよ」
「どうして、いや、なの?」
「言いたくねぇ」
「女にされるのが嫌なの?」
「……お前なぁ」
「当たり?」
言いながら、私は徐々に体を起こして土方さんに迫った。土方さんは図星を指されると弱い。嘘でもいいから威勢を張って堂々としていればいいのにそれができない。いつもどんなときでも、相手がか弱いこの私でも。
垂直になるまで体を起こして、土方さんの目から視線をそらさないまま裾の割れた浴衣に片手を差し込んでそれをさすり上げた。土方さんが声をこらえる。息が乱れる。浴衣の下はボクサーパンツだ体の線にぴったりそうのが色っぽい下着。
抵抗されたら勝ち目はないと分かっていたので、下着の中からそれを取り出した瞬間に体を屈めて口に含む。わずかに腰の引けるような気配がしたけれど、それだけだった。私はこっそりガッツポーズを取り、土方さんのそれに丁寧に舌を這わせた。
切羽詰まっているのは嘘ではなかったようで、それはもう本当に苦しそうにぱんぱんに張っていた。男の人って本当に大変ね。自分の意志ではどうにもならないものを常に下半身にぶら下げていなければならないなんて。
吸い込むように愛撫しながら、片方の手で睾丸を丸く転がしてみる。集中する。一番気持ちよくなってくれる方法を文字通り手探りで探していく。集中しすぎて、耳鳴りがした。音が聞こえない、土方さんの声が聞こえない。気持ちよくない? それとも私の耳がおかしくなっただけ?
「おい、
!」
と、何かものすごい力で体を引っ張り上げられたと思ったら、背中から畳に叩きつけられた。とっさのことでしたたか後頭部を打ってしまう。痛い。なに? なに、これは? 土方さんは私の手首を畳に縫い止め、鬼のような形相をして私を睨んでいる。
「やめろっつってんだろうが」
もはや怒鳴り声にもならない静かな低い声。あぁ、これは本気で怒っているときの声だと分かった。余計なことをして、とうとう嫌われちゃったかな、私。土方さんは、自分から舐めるために身をかがめるような女は嫌いよね。そうよね、ちょっと考えたらすぐに分かることだったのに、私、何してるの。土方さんのためにしてあげたかったんだけど、下手だったかな。あぁあ。
「……何、泣いてんだよ」
「だっ、だって、土方さんが……」
「しなくていいって言ってんだよ」
「でも、……そんなひどい顔してるのに、むりしてほしくなくて……」
「だから別に無理とかじゃねぇんだって、なんだよ信用ねぇな」
土方さんは乱暴に私の体をひっくり返してうつ伏せにすると、私の腰骨を両膝でがっちり挟んで動けないようにしてしまった。まだ涙が収まらない私の耳元で言うことには、
「そんなに俺の顔見たくねぇならこうしてろ」
そんなのただの屁理屈だ、と言い返したかったけれど、うつ伏せのまま浴衣と下着を剥ぎ取られて何も言えなくなってしまう。
あぁ、こんな風に抱かれるのは嫌だな。どうしてだろう。心から好きな人の腕の中にいるというのに、不安で苦しくて仕方がない。うなじと背中に降ってくる口付けの雨が重い。土方さんのたくましい腕は、今は拘束具だ。これ以上頼りになるものを私は他に知らないけれど、どうにかして逃げ出したいと思ってしまうのが悲しい。
「あ、ゴムがねぇ」
土方さんが背中でつぶやく。それはそうよね、体ひとつでここに放り込まれたんだものね。
「右側の引き出しの奥に入ってます」
土方さんは私に跨ったまま引き出しをごそごそあさって、五つほど繋がったゴムをひとつちぎり取ると自分でも自分のものに被せた。たぶん、浴衣も下着も脱いでいない。気配で分かる。私の背中に覆いかぶさる土方さんの体は、柔らかい綿の浴衣の肌触りがする。
「入れるぞ」
言われるのと同時に、私の中に土方さんのそれが入ってきた。気持ちよすぎて声が出ない。体が震える。脱いだ浴衣を胸元で抱きしめて快感に耐える。土方さんの手が頭の横から伸びてきて、私の手の甲を包むのが見えた。
「ひ、じか、たさ、んんっ」
「ちょっと、黙ってろよ」
「や、あ、だっ、て、あっ、あっ、あっ」
「分かったから」
分かったって、何が?
そこからはもう会話は繋がらなかった。土方さんは腰を使いながら私の背中に唇を落とし、たくさんの痕を残した。歯型もあるかもしれないけれど、鏡を使っても見えない場所なので確かめようがない。
土方さん、ねぇ、土方さん。
私の話を聞いて。あなた本当に酷い顔をしてるのよ。一度鏡を見てきたほうがいいわ。お願いだから、たまにはゆっくり休んで。そのために必要なんだったら何度だって抱かれてあげるけど、たまには私の言うこともひとつくらい聞いてくれたってバチは当たらないんじゃない?
同じ体位のまま土方さんは射精して、私の背中の上にどっさり倒れこんでしばらく動かなかった。熱くて重くて、少し痛かった。ようやく息を整えて体を起こしとき、土方さんは私のうなじを音を立てて吸った。
「腹減ったな」
……終わってすぐ言うことがそれ?
「おむすびありますよ。台所に」
「おぉ」
土方さんが土間へ降りて行っている間に、私は軽く浴衣を着直して髪を整え、自分で自分の股間を拭う。まだ物足りなくてそれだけで少し感じてしまうけれど、さすがに自重した。これ以上はしたないことをして、土方さんに嫌われるのは嫌だった。
「お前も食う?」
土方さんは人の気も知らずに、口におむすびを含みながらもごもごと言う。
「……大丈夫です」
私、どうしてこの人に嫌われないためにこんなに躍起になってるんだろう。突然虚しい気持ちが起こって、私は畳の上にごろりと横になって上掛けを被る。
おむすびを頬張りながら、土方さんが戻ってきた。
「もうねんの?」
「いえ、ねむくはないですけど……」
あなたが中途半端なことするからもやもやしちゃってしょうがないんじゃない。って、恨み言を言ったら、土方さんはどうするかしら。怒るかな、ふて腐れるかな、それともとうとう私に愛想を尽かす? それだけはどうしても嫌だ。今日はもうすでに何度も機嫌を損ねさせてしまっているし、これ以上墓穴を掘りたくない。
おむすびを三つ、ぺろりと平らげた土方さんは指に着いた海苔を舐め取って私を見下ろした。赤い舌が見える。さっきまで私の背中を舐めまわしていた赤い舌。
「何ですか?」
「いや、なんでお前ゴム持ってんのかと思って」
「水商売していたころの残りです」
「何年前の話だよ?」
「さぁ、よく覚えてません」
あぁ、この話はしたくないな。他の男と寝た話なんか土方さんに知って欲しくない。聞かないで欲しい。どうせ嫌われる要素にしかならない。
「フェラもそこで覚えた?」
「……それ聞いて何になるんですか?」
「うまかったよ」
「さっきは、嫌がってたじゃないですかっ」
「なんで泣くんだよ、褒めてんだろ?」
「知りませんよもうう!」
言われて初めて、涙が目尻を伝って畳に落ちたのが分かった。慌てて背を向けて布団を被る。なんだかもう、虚しくてみっともなくてしょうがない。恥ずかしい。涙が後から後から溢れて止まらない。
どうしよう。こんなに感情的になって、土方さんはこういう面倒臭い女一番嫌いでしょ。嫌われたくない。嫌われたくない。私の望みはそれしかないのに、どうしてたったそれだけのことがうまくできないの。
「
」
涙で喉が詰まって返事ができない。というのに土方さんは布団の上から私の肩を揺すって急かす。
「おい、
」
「……何ですか?」
私がもぞもぞと答えるやいなや、土方さんは布団ごと私の体を持ち上げた。
「わぁ! ちょっと! 何するの……!」
「こら! 暴れんな馬鹿野郎!」
どすん、と音を立てて落ちた場所は、柔らかい布団の上だった。掛け布団を剥がされて顔を覗き込まれる。泣き顔を見られたくなくて顔を背けたら、がら空きになった背中から抱きすくめられた。
「荒っぽくして、悪かったよ」
違う。そんなことが悲しいんじゃない。痛かったし虚しかったけど、そんなことを怒ってるんじゃない。私が怒っているのは土方さんじゃなくて、土方さんの機嫌を損ねるようなことしかできない私自身だ。こんな調子じゃいつ別れを切り出されたっておかしくないし、そうなったら私はこの仕事も住処も失うだろう。私を振った男が上司の職場で働き続けるなんて、そんなことできるわけがない。
土方さんの腕が、きつく私の体を抱きしめる。足の間に体を抱え込まれて動けない。土方さんの大きな体とくっついていると、子どものように無力な心もとない気持ちがした。もう何も抵抗できない。恥も外聞も捨てて手放しに大声を上げて泣き喚いてしまいたい。頭の中が熱く沸騰して自制がきかない。
「切羽詰まってたんだ。許してくれよ」
首筋の大動脈の上に唇を押し当てながら、土方さんは言った。
「……ちょっと、痛かったわ」
思いがけず、子どものような拗ねた声が出た。
自分への悪口が頭に浮かんで止まらない。何よ、可愛い子ぶっちゃって。ちょっと優しい言葉を掛けられただけで調子に乗ってるんじゃないわよ。私ははしたなくって汚い女よ、どうせ嫌われて捨てられるの。覚悟を決めなさいよ。
「ごめんな。今度はちゃんと優しくする」
ぎくりと、体が強張った。今、土方さんはなんて言った?
「……またするの?」
「だってお前まだいってねぇだろ」
なんだ、気づいていたの。言いかけた言葉は喉の奥に詰まる。土方さんの手が、胸元を弄っていやらしく動く。
「ちょっ、と……!」
「顔見たくねぇんならこれちょうどいいだろ?」
「そんなこといってるんじゃな、あっいい……ん!」
せっかく結び直した帯をまた解かれる。あれ、おかしい。私、嫌われたんじゃなかったの? 何これ何これ何これ。わけがわからなくて身じろぎをするけれど、土方さんの腕の力が強すぎて逃げられない。これじゃぁ本当に無力な子どもだ。いや、赤ん坊かもしれない。全く自分の体が自由にならず、言葉にならない声しか出てこない。
「はぁっ、あぁ、あっ、あっ、あぁ……!」
「いきたくなったら言えよ、顔見たい」
「や、だ、はずかし、いぃ……」
「今さら何言ってんだよ」
土方さんの手が下腹部に滑る。下着はもう付けていなかったからそこはこれ以上ないほど無防備で、土方さんの太い指はあっという間に割れ目に吸い込まれていく。クリトリスを撫でられただけで腰が跳ねる。
「ひゃぁっ、あぁ」
「嫌だとか言って、準備万端じゃねぇか」
「あ、なたがさっき、まで、かき回してた、か、ら、でしょっ……!」
「なぁ、何で今日はそんな拗ねてんだよ? 俺何かしたか?」
耳元で囁く土方さんの息が、胸とクリトリスに触れる手と指が、体中をなぶっている気がする。気持ちいい。声を出せないほど息が荒くなって、質問に答えられないのが悔しいからやめて欲しいけれど、やめて欲しくない。
「だっ、てぇ……!」
どうしよう。言葉が生のまま跳び出してくるのを止められない。
「ひじかた、さんが、お、おこる、から……っ」
「はぁ? 怒ってねぇよ」
「おこった! わ、わた、し、ただ、ひじかたさんに、楽になってもらいたかっただけなの、にぃ、……、土方さん、おこったじゃ、ないぃ……」
「あぁ、だって俺舐められんの嫌いなんだよ」
「……それでもひどいっ……んんっ!」
背中を土方さんの胸板に押し付けるように痙攣して、一瞬頭が真っ白になる。土方さんの声と息と手だけでいってしまった。何にも考えられなくなる。土方さんの大きな腕の中、裸で全身を委ねられるということはなんて素敵なことだろう。達した後の満足感に、ぐったりと土方さんの胸板を滑ってしまう。見上げると、なんだか必死な顔をして額に汗をかいている土方さんが見えた。
「されるのが、いやなのは、そういうおんなが、き、きらいだから……?」
「何言ってんだ? お前?」
土方さんの指があそこからずるりと抜ける。その空白が切なくて、どうしよう、もう本音しか出てこない。
「水商売をして、自分でゴム持ってるような女、ひじかたさんはきらいでしょ?」
「いや誰もそんなこと言ってねぇだろうが」
「言われなくても分かるもの、わ、わたしみたいな、はしたない女、土方さんの好みじゃないって」
「
」
「分かってるの。でも、してあげたくなっちゃうんだもの。もう、隠してられない。ひじかたさん。土方さんのことわたし……」
「
」
泣きながら喚いた私の唇を、土方さんは口付けをして無理やり塞いだ。舌を絡め取って言葉を封じられてしまう。でも、そうでもされなくちゃ私は黙ることはできなかっただろう。煙草の苦い味に混ざっておむすびの塩っ気と海苔の味がして、それで少し正気に戻った。
唇を離した瞬間、私は縋るように呟いた。
「……きらいにならないで」
何を言ってるんだろう、私。
そうは思ったが、他に言葉が出てこなかった。
土方さんは呆れた顔をして目を細めると、私の鼻の頭に遊びのようなキスを落とした。
「あのな、本当に嫌いな女に俺がこんなことすると思うか?」
「……?」
「お前、案外、俺のこと信用してないよな」
「……どういう意味ですか?」
土方さんはぐいと腕に力を込めると、座り直して私を横抱きに抱え直した。これじゃぁ本当に赤ちゃんみたいだと思ったけれど、いったばかりで体に力が入らない。土方さんの首にしがみついてどうにか目を合わせる。土方さんは小首を傾げて、子どもをあやすような顔で微笑んだ。
「あのな、俺は妾の子なんだよ」
「……え?」
「豪農の親父が手ぇ付けた村の女のひとりでな、ガキの頃はそりゃもう、疎まれたもんだったんだぜ。妾の子どもに遺産なんかやれるかって、煙たがられてな。実家には居づらくて、泥水すすって生きてたんだ」
土方の手が、涙で濡れた頬を撫でる。さっきまで私の胸を弄んでいた土方さんの手、大きな手のひら。
「俺はそういう男だよ。腰に刀挿して偉ぶってるけどな、本性は意地汚ねぇ田舎者のゴロツキさ。生きてくために剣だけにすがってきた、ただのバラガキだよ」
「そんなこと……、土方さんは立派に、こうやって真選組を……」
「お前も似たようなもんだろ」
「えぇ?」
「生きていくためだったんだろ」
土方さんが何を言っているか分からない。頭がぼんやりして、言葉が右から左へ流れていく。私の頬を撫でてくれている土方さんの手だけが現実的だ。
「お前が水商売やってたのは、生きていくためだったんだろう。ゴム持ってんのも、フェラチオ覚えたのも、自分の身を守るためだったんだろう。それを俺は、はしたないとは思わねぇよ」
土方さんの手、体を支えてくれる腕、熱い胸板、切れ長の瞳、優しい眼差し、こめかみに光る汗。目に見える全てが滲んで見えた。涙が止まらなかった。
「俺の気持ち先取りして早とちりすんな。誰も嫌いになっただなんて言ってねぇだろ」
「……ご、ごめんなさい……」
「お前は俺とずっと一緒にいるんだろう。前に言ってたよな?」
「はい」
「俺もそう思ってるよ」
「はい」
私はひとつ大きく頷いた。そして、唇を合わせるだけの口付けをした。神様の前で永遠の愛を誓う時のように、確かめるようにキスをした。土方さんは力一杯私を抱きしめてくれた。
土方さんの言わんとすることを全て理解できた気はしなかったけれど、どうやら嫌われてはいないらしいということには確信を持てた。安心した。私の体を抱きしめる土方さんの手が、私の背骨をなぞるように動いている。それだけで愛されていることが実感できるのが不思議だった。
「ねぇ、土方さんも脱いで」
恐る恐る頼んでみたら、意外なほどあっさり脱いでくれた。邪魔でしかたがなかった浴衣がなくなって嬉しくて、素肌のまま思い切り抱きついたらしっかりと受け止めてくれる。たくましい筋肉に覆われた土方さんの体を全身で感じる。肌は吸い付くようにしっとりとして触れているだけで気持ちがいい。
「なぁ、もう挿れていい?」
「私が上になってもいいなら」
「えぇ」
「じゃぁ舐めさせてくれる?」
「それは俺本当に嫌なんだよ」
「舐めさせてくれないならこれくらいさせて」
まだ何か言いたそうな土方さんの口を唇で塞いで、私はボクサーパンツの中からそれを取り出した。ついさっき出したばかりなのにもう元気だ。嬉しい。ゴムの袋を破いて準備をする。本当は手と口を使って愛撫しながら被せたりするのが得意だけれど、土方さんは本当に嫌みたいだから我慢した。土方さんは私がするのを、両腕を後ろに付いて見ていた。
土方さんの上に跨って、ゆっくり腰を落とす。すんなり入ってほっとする。奥に当たると自然に甘い息が出る。いいところを探して自分で腰を上下する私の一挙手一投足を、土方さんは見ている。腰に添えられた土方さんの手が、火傷するんじゃないかと思うほど熱い。
「気持ちいい?」
「きもちいい」
「俺もしたい」
「うん、して」
深く膝に抱え上げられて下から突き上げられる。いけない、すぐにいってしまいそうだ。真っ白になる。土方さんの首元にしがみついてなんとか耐える。まだいきたくない。もっともっと感じていた。
「ひ、じかたさん……、ちょ、っと、ゆっくり、して……」
「わりぃ、無理」
「あっ、あっ、あっ、あっ、いっちゃういっちゃう……」
「あぁ、顔見せろよ」
「やっ、あっ、やだっ、んんっ」
「だからなんでいまさら」
「わ、わっかん、ない、はずか、しいぃい……!」
「かわいいよ。見せろって」
「やぁああっ、あっ、あっ、あぁあ!」
それから、何回かした。
数は数えていない。
朝までした。
さすがに次の日起きられなくて、朝の仕事は休んだ。
土方さんも休んだ。
土方さんが定めた局中法度によって、この離れには私以外誰も入れないことになっているから、邪魔は一度も入らなかった。好きなだけして、好きなだけ一緒にいた。
ずっとずっと、一緒にいた。
20170529