土方さんにはあまり過度な期待をしてはいけない。仕事が第一義な人だし、あまり細かいところに気がつくタイプでもない。破れた障子を張り替えたって、畳を変えたって、会議室の掛け軸を変えたって絶対に気づかない。ましてや、季節の変わり目に新しい着物を卸してみたところで、そんな些細なことに気づくはずがない。だから、最初からそんなことは期待しない。
「お前、また痩せただろ」
そんな風に思っていたから、ある夜に思いがけないことを指摘されて驚いてしまった。
「そうですか?」
土方さんの大きな手のひらが、背中の真ん中から腰に向かって滑る。寝巻きの浴衣を締める帯は細く、普段着とは違って体の線が浮き出やすい。
「浴衣のせいでそう見えるだけじゃ?」
「そんなんじゃねぇよ」
土方さんの両手が私の腰を掴んで、ぐいと引き寄せられる。厚い胸板が背中にぴったりとくっついて、両腕が私のお腹回りをすっぽりと包む。その手のひらに自分の手を重ねると、土方さんはさらにその下から片手を取り出して私の手の上に重ねた。
「また無理して働いてんだろ」
「土方さんほどじゃありませんよ」
「うるせぇ」
土方さんの両腕が私のお腹を締め付けてきたのがくすぐったくて身をよじると、土方さんに首筋に噛み付かれた。
「ちょっと、痛いですよ」
「首、こんなに細かったか?」
「覚えてません」
「腰も細くなってる」
「そんなことありませんって」
「いい加減認めろ、オラ」
ふいに、足元の感覚がなくなって悲鳴をあげそうになる。体が宙に浮いたような気持ちがして何事かと思えば、土方さんに体を抱きかかえられていた。
「ほら見ろ。こんなに軽い」
「え? ちょっと、土方さん……!?」
土方さんがそのまま歩き出すので、思わずその首にしがみつく。布団の上に体を横たえられると、唇を塞がれた。土方さんの手は確かめるように私の腰を掴んだままで、仕方がないので私は土方さんの首に両腕を回した。
「……あんま、無理すんなよ」
しばらくそうしてから唇を離して、土方さんは呟いた。
「してないって言ってるじゃないですか」
「だったらもっと体に気ぃ遣えよ。見てるこっちの身にもなれ」
私の顔を覗き込む土方さんの目は、本当に心からの心配を表して陰っていた。
「よく見ていてくれてるんですね、私のこと」
その目元を指先でなぞると、土方さんは頬をぴくり痙攣させた。
「……そりゃぁな」
「ところで、この浴衣、卸したてなんですけどどうです?似合いますか?」
すると、土方さんは急に黙り込んでしまった。無表情なまま硬直した表情が全てを物語っているように見えて、土方さんの頬を両手で挟み込んだ。ぱちん、ととてもいい音がして、土方さんの目から火花が飛んだ。
「全然見てないじゃないですか」
「……今そういう話してねぇだろうが」
「あら、そうだったんですか? 私はてっきり」
「かわいくねぇ奴」
「褒めてます?」
「褒めてねぇ」
土方さんはやけになって、私の体に覆いかぶさって腰の帯を解くと、そこから浴衣の下に手を入れて私の素肌を撫でた。
たぶん土方さんは、こうやって私に触れて確かめている。痩せたっていうのもあながち的はずれなことでもない。でも、本当のことを話して、心配させたくなかった。私が口から出まかせばかり言うことは、土方さんももうとっくに分かっているはずだ、はじめからそうだったのだから。私がいつも肝心なことを話さないから、土方さんは私の体に触れて本当のことを確かめる。
だから、たぶん、土方さんはやさしい。私に嘘をつくことを許してくれる。
土方さんがもう一度私にキスをしたので、私はゆっくりと目を閉じた。
20160321
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