深夜1時の密会






真夜中である。月も天頂を通り過ぎた後の、真夜中である。

こんな時間の訪問者に茶を出すような義理もないので、銀時は眠い目を擦りながら大きな欠伸をした。

「おい銀時。こっちは真面目な話をしに来ているんだ。いい加減目を覚ませ」

銀時と向かい合っているのは桂で、演技がかった真剣な顔でそう言う。所謂、招かれざる客である。

「夜中の1時にいきなり押しかけて来るような非常識な奴に言われたくねぇんだけど」

「先日の一件で真撰組の警備が厳重になっているんだ。匿ってくれ」

「なんでお前偉そうなんだよ。何様? 俺様? ヅラ様?」

「ヅラじゃない、桂だ。いいだろう別に。他に大事な話もある。夜は長いのだから付き合え」

「勝手に人の家上がりこんでおいてやめてくれないその態度。いい加減殴りたくなんだよていうか眠ぃから寝かせろ」

「寝るな。話があると言っている」

「明日にしてくれよ。俺疲れてんだって。今日久しぶりに仕事だったんだから」

「お前恨むなら玄関に鍵を掛けておかなかった自分を恨めよ」

「うち元から鍵なんてついてねぇよ悪いな」

「何、そうなのか。だからこんなに簡単に俺の侵入を許してしまうのだ。しっかりしろ」

「侵入してきた本人が言ってんじゃねぇよ!」

銀時は結局、桂に急かされて湯飲みに水道水を注いで供した。桂は何か言いたげだったけれど、結局何も言わずに塩素臭く温いそれを一口だけ飲んだ。

「で、何? 話って」

怒りで眠気が飛んだらしい銀時は、寝間着のじんべえ姿で偉そうに腕を組む。桂は自分自身の癖で、袖の下で腕を組んだ。空気だけは神妙だったけれど、湯飲みの中が水道水なのでなんだか間抜けだった。

「この間、に会ったぞ」

「あぁ、家にも来た。ていうかお前が寄こしたんだろーが」

「まぁな。あの後は何事もなかったか?」

「ちゃんと送ったよ。てめぇがやらかしたことの尻拭いを俺に押し付けんなよな」

「その事については悪かったと思っている。俺の不手際のせいだ。すまなかった。それはそれでいいのだが、本題はな」

「悪気感じねぇんだけどその言い方」

「俺はと会うのはあの時別れて以来だったのだがな、」

「って聞いてねぇしっ」

桂は考え込むようにして目を閉じて、ううんとひとつ唸る。不機嫌な表情だ。自分勝手な奴だと、銀時はさらに不機嫌に眉根を寄せた。

「まさか真撰組で家政婦なぞしているとはな……。お前は知っていたのか?」

「俺もこの間知ったばっかだよ。ちょっとへまして真撰組お世話になっちゃった時に」

「一体何やったんだ?」

「原チャリで撥ねちゃったんだよねぇ」

「何だと? 何をやってるんだ貴様は。まだ相変わらずか?」

「何まだ相変わらずって」

「というか、話を逸らすな。真撰組にがいるということがどういうことなのか分かっているのか?」

「知らねぇよ。あいつが選んで就職したんだろ。うまく世の中渡って行ってる証拠じゃねぇか」

「そんな事を言っているのではない。もし俺達との関係が真撰組に知られてしまったらどうする? 知られて平気な過去ではないだろう?」

桂は本気での身辺を心配しているらしく、銀時を睨んで身を乗り出す。銀時はそうされても大して動揺した様子もなく、死んだ魚のような目を嫌な風に細めた。

「別にあいつも馬鹿じゃないって。それくらいうまく言い逃れるだろ」

「そんな事を言って、事が起きてからでは遅いのだぞ。今からでも遅くはない。真撰組からを引き離すべきだ」

「そんな必要ねぇって。ていうかお前さ」

銀時は桂の肩を足の裏で押し返して座らせて、自分も座り直して言った。

は自分で選んで真撰組の家政婦に就職したんだろ? だったら大丈夫だよ。そこまでの事信用できねぇのか?」

「だが、しかし銀時……」

「そこまで心配なら、何であの時を連れて逃げなかったんだよ?」

図星をさされて、桂は口を噤んで鼻白む。銀時は襲ってくる眠気に耐えながら頑張って、桂を睨み付けて圧力をかけた。

「真撰組にを置いておくことがそんなに不満だってんなら、あの時そうすれば良かったじゃねぇか。それをしなかったのはお前がそうするべきじゃねぇって思ってるからじゃねぇのか?」

「……それは、だな……」

「何も言えねぇならこんな所で愚痴ってんじゃねぇよ」

銀時は顎が外れそうな大きな欠伸をして、そのままソファの背もたれに後頭部を付けて仰向いた。その気になればそのまま眠ってしまいそうで、けれど桂はそれを咎めることなく、考え込んで視線を落とした。

銀時の言うことは間違ってはいない。その通りだ。矛盾しているのは自分のほうだと思う。銀時の言うことを素直に認めるのは癪だから黙り込んではいるけれど、認めていた。無意識にも、意識的にも。

「……お前に説教される日が来るとはな」

桂がぼそりと呟くと、それに応える様にふがっ、と妙な音がした。それは銀時のいびきで、どうやらさっきの拍子に眠ってしまったらしかった。

桂はそれを叩き起こす気もなんとなく失せてしまったので、何も言わない。湯飲みの中の水道水は温いまま。桂はしばらく迷った後、なんとなくそれを飲み干した。






20080627