おまけ 両手で輪を作るとその内側にすっぽりと収まってしまうくらいに細いの腹部を大きな手のひらで掴む。反対の手でくっきりと浮き上がった鎖骨をなぞると、の肩がびくりと震えた。 がりがりに痩せてしまったの手が、土方の筋肉質な腕に触れている。弱々しいながらも必死に、もう二度と離すまいと言わんばかりに指先に力を入れていて、土方はその腕での腰を引き寄せた。唇に噛み付くようにしたら、土方の腕に爪を立ててしがみついてきた。 その指先から伝わってくる、何か必死な意思。土方は薄く目を開いて、口づけを繰り返しながらの表情を盗み見た。灯をひとつ灯しているだけで部屋は薄暗いが、目が慣れれば困るほどではない。黒く長い髪が肩口をさらさらと流れているのがきれいで、首筋から手を入れて地肌から指で髪を梳くと、たったそれだけでの息が乱れた。 「まだ何もしてねぇぞ」 口付けの合間に囁くと、は困ったような顔をして土方の手のひらに頬を寄せた。 「……だって」 「なんだよ?」 は何か言おうと口を開きかけたけれど、その途端に泣きそうに目元が歪む。瞳に涙が浮かんで、それがほのかな灯りを反射してゆらりと光った。 「……うれしくて」 瞬きをひとつすると、目尻から涙が溢れた。土方はそれを親指で拭ってやって、の額に唇を押し付けた。 「泣くなって」 そうは言いながら、の涙を見て自分の中の一部が例えようもなく高揚しているのが分かる。の笑顔が好きだけれど、泣き顔にはまた別の力があるのだ。それに、は土方以外の人間の前では、絶対に泣かない。の涙は土方だけのものだ。そう思うと、独占欲が満たされるのと同時に、もっともっとと別の欲も湧いてくる。 力なくしがみついてくるこの手を、どうしたらいいだろう。 「……土方さん」 「ん?」 腕の中で、が泣きながら小さな声で呟いた。その手が、土方の胸元、心臓の上あたりに添えられる。土方の目を真っ直ぐに見つめて、は言った。 「今までずっと、嘘ついててごめんなさい」 ずっと、それを言いたかったのだろう。の顔を見ていると、それが痛いほどによく分かった。秘密を打ち明けてしまって、やっと心の重荷が取れて、今初めて、ありのままの気持ちで土方の腕に抱かれているということが、涙が出るほど嬉しいのだ。 の指先に込められた意思は、きっとそういうことだ。 土方はもう一度に口付けて、体重をかけて押し倒した。 の手が土方の頬を両手で挟む。そんなことをされたのは初めてで、土方は経験したことがない高揚感を押さえ込むのに必死だった。土方に組み敷かれ、泣きながら、は土方の方に手を伸ばして、それでも足りないと言いたげに物欲しそうな目をしている。土方はこめかみのあたりで何かが切れたのを感じて、ぐびりと生唾を飲み込んだ。 「悪ぃ。ちょっと、今日は余裕ねぇかもしんねぇ」 予想以上に切羽詰った声が出て、自分でも情けないと思う。はそんな土方の頬を優しく撫でて、その手を首筋に滑らせた。 「……土方さんの、好きにして」 「いいのか?」 手加減できる気がしなかった。こんなに弱ってしまったを傷つけることになりそうで、怖い。けれどもう押さえ込めない。 「土方さんなら、いいの」 が泣きながら笑うから、もうどうしようもなかった。 そして、やりすぎた。 翌朝、朝日で白みはじめた部屋の中で見たの有様はひどいもので、キスマークを付けただけのつもりが、の首や肩だけでなく、体中に真っ赤な印と歯型がつき、なぜか脇腹には大きな青あざができていた。痩せてやつれた体にその傷痕を見れば、暴力を振るわれたあとのようで、理性を取り戻した土方は唖然とした。自分の中に、こんな獣のような本性があるのだと思うと驚いてものも言えなかった。 真っ白なシーツにくるまって眠るは気を失っているようにも見え、いつもならとっくに目を覚まして朝食の準備をしている時間を過ぎてもぴくりともしない。寝息は安定しているから、ただただ、深く眠っているのだろう。 目が覚めてしまった土方は、煙草に火をつけて、の寝顔を見下ろせる位置にあぐらをかいた。その指先に触れると、赤ん坊のように握り返してきたので、手遊びにリズムをとって揺らしてみる。がにこりと微笑んだような気がして、土方も息をもらすように笑った。 悪いことをしたなと、思う。けれど、それを許してくれたことに感謝もしている。それ以外にぴったりくる言葉を思いつかず、 土方はほとんど無意識に呟いた。 「……好きだ」 眠っているの耳には届かなかったけれど、普段なら絶対に口にしないことを言葉にして、それで土方は満足した。 20141124 |