吉原遊郭、お茶処「ひのや」。
 風俗店と違ってのれんが出るのが早いこの店に、神楽はひとりでやってきた。

「ほう、殿がな」

 吉原自警団百華統領・月詠は、一通り神楽の話を聞き、煙管を吹かせながら険しい顔をした。

「行方不明になってもうどのくらいだ?」
「今日で丸四日ネ」
「それは心配だねぇ。無事でいてくれるといいけど……」

 日輪は頬に手を添えて心配そうにため息をつく。車椅子を押していた晴太も不安そうだ。

「銀時はどうしているんじゃ?」
を探しに行くって言ったっきり戻ってこないアル。どこほっつき歩いてるんだカ」
「そうか。そいつはあまりあてにしないほうがよさそうじゃな」
「え、なんで? さんって銀さんの幼馴染なんでしょ? きっと今頃必死で探してるよ!」

 晴太は胸の前でこぶしを握り力説する。けれど、女三人は「分かってないな」と言いたげに目配せをした。

「そりゃ、死に物狂いであちこち駆けずり回ってるのは想像に難くないけど」
「ただがむしゃらにやれば必ず結果が付いてくるわけじゃないアル。人生そんな甘くねぇんだヨ!」
「それに、人探しとなれば人海戦術は基本じゃ。ひとりの力でできることなどたかが知れている」
「こういう時こそ、周りを頼るべきね」

 うんうん、と頷き合う三人を見て、晴太は銀時に同情した。銀時はたぶんものすごく頑張っているのに、この三人には無駄な努力と思われているらしい。大人ってなんて理不尽なんだ。

 月詠は煙管を煙草盆の縁に打ち付けて灰を落とすと、帯にそれを挟み込む。

「よし、百華でも調べてみよう。ただ、わっちらはあくまで吉原の自警団だ。地上のことには疎い。あまり期待するなよ」
「でも、犯人は攘夷浪士だっていう話ネ。そういうお客の情報とか、なんかないアルか?」
「神楽ちゃん。お客さんの情報は簡単には漏らせないよ。私達の信用にかかわるからね」
の命がかかってるって言っても?」
「ごめんねぇ」

 日輪は申し訳なさそうに微笑み、神楽の手に両手を重ねる。吉原一の遊女と呼ばれた女は、今は晴太の母となり、水仕事で荒れた手をしていた。働き者の手には説得力がある。神楽は唇を噛み締めて小さく頷いた。

 元は地下街だった吉原は日暮れが早い。灯篭に灯りが入りはじめ、徐々に人通りも増えてきた。

「すいません。永崎屋って店に行きたいんだけどどういったらいい?」

 店先に着流しの男が顔をのぞかせる。日輪が接客用の笑顔を浮かべて応えた。

「それだったら、この通りをまっすぐ行って三つの目の角を曲がったところだよ。晴太、途中まで案内してやっておくれ」
「うん! 分かった!」
「どうも、ご丁寧に」
「それじゃ、わっちらも行くか。神楽、出口まで送ろう」
「おう! じゃぁナ、日輪! 晴太!」
「えぇ、またね」





「お客さん、見ない顔だね! 吉原は初めて?」

 晴太は男を道案内しながら、あどけない笑顔で言う。
 男は薄笑いをして答えた。

「うん。実はそうなんだ」
「永崎屋って一見さんお断りなんだけど大丈夫?」
「あぁ、人と待ち合わせてるんだ」
「そっか! なら良かった! あの店寿司がうまいんだよ!」
「へぇ。それは楽しみだね」

 男は品定めをするような目で晴太を見、月詠と神楽が向かった方角を振り返る。

「それにしても、吉原には君達みたいな子どももいるんだね。知らなかったよ」
「俺はここに住んでるんだよ。母ちゃんが店やってるんだ」
「さっきの女の子もそうなの?」
「神楽姉ちゃんは違うよ。歌舞伎町に住んでる。今日は人探しに来てたんだ」
「人探し?」
「知り合いが行方不明なんだって。ほら、この間っから爆破テロが続けて起きてるだろ。あれの犯人に、知り合いの姉ちゃんが誘拐されてるんだってさ。さんって言うんだ」
「へぇ。もうそこまで分かってるのか」
「え? 何?」
「いや、あんな子どもが人探しなんて、感心するね」
「知り合いが困ってたら助けるのは当たり前だろ。それに銀さんがあんまりあてになんないみたいだから、神楽姉ちゃんが代わりに頑張んなきゃなんないんだよ」
「銀さん?」
「歌舞伎町で万事屋やってる坂田銀時だよ。銀さんは吉原の救世主なんだ! すっげぇ強いよ!」

 太陽のように大きく笑い、晴太は胸の前でガッツポーズを取る。虫歯のない真っ白な歯が清潔に輝いてまぶしいほどだ。

「そうなんだ」

 男は目を細めて曖昧に笑った。

 それにしても、あてにしていないとけなされたり、すっげぇ強いよと持ち上げられたり、混乱してしまう。伝説の攘夷志士・白夜叉と恐れられてはいるが、取引を持ち掛けた時の銀時はただただ狼狽え、動揺がそのまま太刀筋に現れてしまうような男だった。坂田銀時という男はよく分からない。

 吉田は顎に手をあて不思議そうに首を傾げた。









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