一限の後会える?
大丈夫だよ

そっけないやり取りをして、私は黒尾くんと教室で待ち合わせをした。

3年生は自由登校になっているけれど、講習や進路相談のために通学している生徒は多い。受験対策の講習は希望者のみが特別教室に集められるから、教室は実質フリーの状態になっている。

英語の講習を終えて教室に戻ると、黒尾くんは窓辺に立って待っていた。

「よ」

と、片手を上げてにんまり笑う黒尾くんを見て、思わずほっぺたが緩んだ。荷物を机に置いて、黒尾くんの隣に並ぶ。

教室には机を寄せ合って勉強しているサッカー部のグループと、ひとりで黙々と机に向かっているクラスメイトが散らばっている。みんなそれぞれに集中していて、互いに関心を向けあっている暇はなさそうだ。

彼らの邪魔をしないよう、私は声を落として言った。

「お疲れさま」
ちゃんもね」
「今日の講習は?」
「三限の数Ⅲと、五限の生物。ちゃんは?」
「三限は空いてるけど、四限に日本史」
「その後は塾か」
「黒尾くんは部活だよね」
「見事なすれ違いだよね」

窓の外はいいお天気で、抜けるような青空が広がっていた。校庭にはジャージを着た生徒が集まってきていて、みんな首をすくめていた。

「寒そう」
「そうだな」
「体育館も寒い?」
「暖房も入れるし、体動かしてるからそうでもないよ」

と、後ろから咎めるような咳払いが聞こえた。振り返ってみたものの、教室にいるクラスメイトはみんな机に向かってペンを走らせている。咳払いが誰のものだったかは分からないけれど、少し静かにしてほしいという思いはきっとみんな同じだろう。

黒尾くんも私と同じことを感じたのか、誘うように目配せをしてくる。私はうんと頷いて、言葉を交わさずに教室を出た。



1、2年生は授業の真っ最中で、校舎内は静かだ。なんだか授業をさぼっているような気分になってそわそわする。床を上履きが踏みしめる足音がやけに大きく響く。

「どこ行こっか?」

黒尾くんが声を潜めて言った。

「そうだな、図書室とか、かな」
「あ、勉強する感じなの?」
「いや、せっかくだからおしゃべりしたいけど、ちゃんは?」
「私も。でも授業中だとどこも落ち着かないよね」
「気軽にデートもできないねぇ」

私は思わず言葉につまった。デートと、てらいなく言う黒尾くんの声に胸が高鳴る。そうか、これはデートなのか。学校の廊下を並んで歩いているだけだけれど、そう思うとただの真っ直ぐな廊下も特別なものに思えてくる。

あてもなくぶらぶら歩いていると、食堂の前に出た。お昼にならないと食堂は開かないけれど、入口の外にある自動販売機はいつでも使える。

「何か飲もうか」

黒尾くんはそう言って、ズボンのポケットに手を入れた。小銭が擦れる音がする。

私は思わず、空っぽのポケットを上から叩いた。

「あ、私、財布置いてきちゃった」
「奢るよ、何がいい?」

黒尾くんは私の答えを待たずに小銭を自動販売機に入れていく。

「え、悪いよ」
「いいからいいから、気にしないで」
「でも」

自動販売機の値段表示がぱっと一斉に点灯する。黒尾くんは手のひらを上にして「どうぞ」と言う。仕方なく、私はホットレモンのボタンをプッシュした。ガコンッと大きな音を立てて落ちてきたペットボトルを、黒尾くんが拾ってくれた。

「そこまでしてくれなくてもいいのに」

申し訳ない気持ちでそう言った私を、黒尾くんは笑顔で見下ろしていた。

「彼氏なんだから、これくらいさせてよ」











20201220